研究実績の概要 |
アスベスト曝露と関係の深い悪性中皮腫は、比較的稀な疾患であるが、世界的に急増する傾向にあり、わが国でも大きな社会問題となっている。本研究課題では、へパラン硫酸鎖を有する細胞膜上の受容体であるSdc4を標的とする核酸医薬や抗体医薬が悪性中皮腫に対して有効かどうかを明らかとすることを目的とした。 2021年度に悪性中皮腫の胸水セルブロックや手術組織検体を用いてSdc4蛋白が高発現していることやSdc4のノックダウンにより、悪性中皮腫由来培養細胞株であるMSTO-211Hの増殖を効果的に阻害することを明らかにした。2022年度は、正常凍結組織5例、悪性中皮腫20例と症例数を増やして組織免疫染色によりSdc4発現の検討を行なった。市販のSdc4ポリクローナル抗体では正常大腸粘膜上皮、気管上皮細胞、肝細胞、大腸癌組織、悪性中皮腫のいずれにおいても強いSdc4蛋白の染色性を認めた。一方、新たに作製したSdc4モノクローナル抗体では悪性中皮腫細胞でのSdc4蛋白の染色性は維持しながらも、正常大腸、肝臓、膵臓での発現はほとんどみられず、唯一、気管上皮細胞における染色性は弱いながらも残存した。Sdc4蛋白は気管上皮細胞に高発現するため核酸のデリバリーでは肺に核酸を送達しない工夫が必要であると考えられた。 より効果的な治療効果を示す核酸医薬を探すために、様々な悪性腫瘍に治療効果を示す8種類の核酸(MIRTX, miR-23b-3p, miR-329-3p, miR-129-5p, miR-129-1-3p, miR-4711-5p, miR-136-5p, Sdc4-siRNA)を用いて、数種の中皮腫由来細胞株(H2452, H2052, H28, MSTO-211H)に対する増殖抑制効果等を調べた結果、抗腫瘍人工核酸MIRTXがいずれの中皮腫に対しても最も増殖抑制効果を示すことが分かった。
|