研究課題
胃癌は癌死因の世界第3位であり、罹患率・死亡数は依然として高い。近年、免疫チェックポイント阻害薬は癌治療に革命をもたらし、切除不能・再発胃癌に対しても標準治療になった。しかし、その約60%で病勢を制御できず、胃癌の治療抵抗性の克服は重要な課題である。近年、1細胞毎の網羅的遺伝子発現解析を行うシングルセルRNAシーケシング (scRNA-seq)による腫瘍免疫微小環境 (TME)の解明が進んでおり、胃癌においても癌細胞や免疫細胞に多様性や不均一性があることが報告された。本研究は腫瘍局所に浸潤するB細胞が抗腫瘍免疫において重要な役割を果たしている可能性があるという知見から、術前化学療法(NAC)を施行した胃癌TMEに存在するB細胞のheterogenietyに着目した。まず、当科で胃切除術を施行した胃癌症例から採取した腫瘍部と正常粘膜を対象とし、B細胞のsubsetや機能関連遺伝子をscRNA-seqを用いて評価した。その結果、B細胞には未熟性B細胞、活性化B細胞、メモリーB細胞といったheterogeneityを明らかにし、胃癌部では抗体依存性細胞障害性作用に関わる形質細胞のIgG関連遺伝子発現が正常粘膜と比較して有意に高値であった。次に胃癌と同様の上部消化管癌である食道癌浸潤B細胞について評価したところ、化学療法後に共刺激やCD40シグナルが亢進していた。また、未熟性B細胞の割合は減少し、B細胞活性化遺伝子がアップレギュレートしていた。さらに、腫瘍浸潤抗体産生細胞の割合は、遊走能の低下とともに増加し、抗体産生細胞の抗体産生関連遺伝子の発現は化学療法後に上昇していた。
2: おおむね順調に進展している
胃癌と食道癌における腫瘍浸潤B細胞のheterogeneityをscRNA-seqにより確認し、胃癌部では抗体依存性細胞障害性作用に関わる形質細胞のIgG関連遺伝子発現が正常粘膜と比較して有意に高値であること、食道癌では化学療法後にB細胞の共刺激やCD40シグナルが亢進や抗体産生細胞の抗体産生関連遺伝子の発現は化学療法後に上昇していることを示した。以上の理由から②と判断した。
胃癌に対するNAC症例と抗PD-1抗体投与症例のscRNA-seqをすでに施行しており、今後NACや抗PD-1抗体投与後の腫瘍浸潤B細胞の機能変化について評価する。その後、NACにより変動する分子の中で治療標的候補分子を検索し、免疫染色による蛋白レベルでの発現の確認や予後との相関を評価する。さらに候補分子を標的としたin vitro・in vivo実験を行う予定である。
研究計画はおおむね順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。次年度は研究用試薬、シングルセル受託解析等に使用予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Clinical and Translational Medicine
巻: 13 ページ: e1181
10.1002/ctm2.1181