研究課題
我が国の主要ながんである胃がんにおいて、治療抵抗性や再発の要因となる「薬物治療初期に出現する薬剤抵抗性」の分子機序を明らかにし、同分子機序を標的とする新規化合物の同定を目的として研究を進める。我々は、独自に樹立した患者腫瘍由来胃がん細胞を用い、ALDH1A3高発現性のがん細胞が、薬剤処理後の初期残存細胞(Persister細胞)であることを見出している。本年度は、まず、ALDH1A3遺伝子座に、蛍光タンパク質をコードするGFP遺伝子のノックインに成功した。これにより、制がん剤投与後におけるALDH1A3発現細胞の挙動を生きた状態でリアルタイムにモニタする解析システムを構築できた。また、同システムを用いて、エピジェネティックな制御因子の阻害剤などを中心に、ALDH1A3高発現性のPersister細胞の形質安定維持に影響を与えるシグナル伝達阻害剤の探索を開始した。他方、ALDH1A3高発現性のPersister細胞と元の細胞において、トランスクリプトーム解析を実施した。さらに、得られたデータを用い、各種エンリッチメント解析を行い、Persister細胞とリンクする分子経路の同定を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、まず計画していたように、蛍光タンパク質をコードする遺伝子のノックインにより、制がん剤投与後におけるALDH1A3高発現性のPersister細胞の挙動をモニタする解析システムを構築できた。また、同システムを用いて、エピジェネティックな制御因子の解析を含め、Persister細胞の形質安定維持に影響を与えるシグナル伝達阻害剤の探索を進めることができた。さらに、ALDH1A3高発現性のPersister細胞と元の細胞において、トランスクリプトーム解析を予定通り実施し、データを取得した。以上のように、計画した解析は概ね進めることができた。
今後は、これまでに構築したALDH1A3発現細胞のモニタ系を用いて、制がん剤処理後のPersister細胞の選択および形質誘導をリアルタイムにモニタリングすることにより、その分子機序の解析につなげる。また、阻害剤探索から、Persister細胞の維持に関わるシグナル経路、特にエピジェネティックな制御の有無を明らかにする。これらと平行して、トランスクリプトーム解析から得られた結果をさらに統合することにより、Persister細胞の維持制御のキーとなる分子の同定を目指す。
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