胃がんにおいて、薬物治療初期に出現する薬剤抵抗性Persister細胞の生存維持や治療抵抗性の分子機序を明らかにし、同分子機序を標的とする新規化合物の同定を目的として研究を進めている。 我々は、独自に樹立した患者腫瘍由来胃がん細胞を用い、ALDH1A3高発現細胞が、制がん剤処理後の初期残存Persister細胞であることを見出し、ALDH1A3分子が腫瘍増殖に寄与することを明らかにした。加えて、術前化学療法を施行された胃がん組織では、ALDH1A3発現が高いことが確認された。前年度までに、樹立したALDH1A3遺伝子座にGFP遺伝子をノックインした細胞を用いたライブセルイメージングにより、制がん剤投与後において、ALDH1A3発現性の初期治療抵抗性Persister細胞が経時的に選択及び誘導されること、特に、その誘導が重要であることを実証した。 本年度は前年度までの解析をさらに進め、制がん剤投与後に残存した胃がん細胞で、ALDH1A3プロモーターにおいて、ヒストンH3リジン27アセチル化が亢進しており、BET阻害剤がALDH1A3発現を抑制し、制がん剤投与後に残存した胃がん細胞の増殖を選択的に阻害することを見出した。制がん剤投与後に残存した胃がん細胞では、BETファミリーメンバーの中で、BRD4がALDH1A3プロモーターにリクルートされ、BRD4の発現抑制は制がん剤によるALDH1A3の発現誘導を低下させた。また重要なことに、制がん剤とBET阻害剤の併用投与は、in vivoでの胃がんの腫瘍増殖を抑制した。以上の結果から、BETタンパク質による生存因子ALDH1A3の発現制御が、胃がんの薬物療法において、治療抵抗性細胞の生存を有効に抑制するための標的となることが示唆された。(研究協力者:李珍)
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