本研究課題は、非小細胞肺がんおよび悪性黒色腫を中心に、免疫チェックポイント阻害薬を投与された症例において、治療が奏功した症例の中で、その効果が長期に持続した場合と持続しなかった場合の比較から、腫瘍浸潤T細胞と末梢血T細胞で共通するT細胞受容体のレパトアと細胞表面マーカーの網羅的解析を行い、免疫チェックポイント阻害薬投与後の長期奏功と関わるバイオマーカーの樹立を目的とする。 2022年度は、悪性黒色腫に対して抗PD-1抗体単剤もしくは抗PD-1抗体・抗CTLA-4抗体の併用治療を受けた患者から、治療前後で回収した腫瘍浸潤リンパ球および末梢血を用いて、腫瘍浸潤T細胞および末梢血T細胞で共通する2種類の表面マーカーをバイオマーカーの候補分子として同定した。さらに非小細胞肺がん・頭頚部がんに関しては、抗PD-1抗体単剤の治療奏功に関わる因子として腫瘍環境の Semaphorin 4A に着目し、腫瘍浸潤 CD8陽性T細胞に対してSemaphorin 4Aがplexin Bを介してmTORC1シグナル並びにポリアミン合成を誘導し、抗原特異的T細胞のエフェクター機能と増殖が改善するとともに、リコンビナント蛋白の投与によって抗PD-1抗体の治療効果が改善することを示しScience Advancesに報告した。2023年度には、さらに頭頚部がんの腫瘍環境におけるSemaphorin6DがT細胞のplexinAを介してT細胞の増殖・活性化を抑制することを明らかにJCI insightに報告した。長期奏功に関しては、マウスモデルに加えて、ヒトPBMCや腫瘍浸潤免疫細胞を用いて、これまで候補として同定した2種類の分子に着目し、ノックアウト細胞の作成・共培養系などの構築を完了した。また実際に長期奏功後に再燃した臨床検体の集積もしていたため、これらの候補分子の機能解析を進めている。
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