研究実績の概要 |
本研究課題は、自分自身の行動の抑制(反応抑制)を実現する神経回路メカニズムの解明を目的としている。これまで行ってきた機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によるヒト反応抑制に関わる脳領域やネットワークの同定、同定された脳領域に対し経頭蓋磁気刺激(TMS)による介入に加え、前年度から着手してきた経頭蓋超音波刺激(transcranial ultrasound stimulation; TUS)を用いた研究を令和4年度は大きく進めることができた。TUSは、超音波により非侵襲的に大脳皮質のみならず脳深部領域に対しても可逆的に介入できる手法である。まず妥当性の検証としてヒト一次運動野に対しTUSを行ったところ、運動誘発電位の低下が観測され、脳に対して活動を抑制させる効果が確認できた。次に反応抑制機能について、大脳基底核へのTUSの効果を調べた。視床下核や被殻前部に対し刺激したところ、反応抑制の効率の低下が見られた。さらに拡散MRIにより被殻前部と解剖学的結合性が見られた下前頭皮質前部に対しTUSを行ったところ、反応抑制効率の低下が観測された。これらからよく知られているハイパー直接路に加え、下前頭皮質前部-被殻前部の間接路が反応抑制に関わることが明らかになった。以上の成果をまとめ、Cell Reports誌に発表した(Nakajima, Osada et al., Cell Reports, 2022)。また、TUSの限局した部位を刺激できるため、ターゲット設定が非常に重要になる。第一背側骨間筋に対応する一次運動野領域をfMRIおよびTMSにより被験者ごとに同定し、TUS適用のため脳表からの深さの分布について報告した(Osada et a., Brain Stimulation, 2022)。
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