本研究は神経変性疾患のALS(筋萎縮性側索硬化症: amyotrophic lateral sclerosis)剖検例由来DNAを用いた網羅的遺伝子解析(エクソーム解析)行い、TDP-43病理多型を規定する因子を見出すことを主たる目的としている。ALSにおける遺伝子変異の解析は、その病態生理の理解、予後評価、治療法開発に貢献すると予想される。 2023年度には新たに7検体由来の病理検体から抽出したDNAを用いて新規エクソーム解析を実施し、既存のALS原因40遺伝子の変異について検討した。うち一例で、事前に定めた分類基準にのっとり、Possible pathogenic と分類される既知ALS原因遺伝子変異(ミスセンス変異)をあらたに見出した。 またALS新規原因遺伝子候補を検索するため、テキストマイニングとPubmed データベースでの抄録を用いた解析を継続している。この手法にて8種類の原因遺伝子候補を選定している。さらに当科ALS剖検エクソーム解析例中で、既知原因遺伝子に変異が見出されない117例中10例で、これらの原因遺伝子の変異を認めた。興味深いことに、このうちの1遺伝子は別研究機関のレジストリーにでも同一変異が認められており、病的意義が高いものと想定される。最終年度である本年は、同遺伝子変異例について複数の抗体を用いた病理学的検討を行い、TDP-43病理と関連する、蛋白質の局在変化を見出している。さらにウェスタンブロット法などを用い、蓄積蛋白質の生化学的な性質の評価を行っている。次年度以降も引き続きこれら遺伝子変異の病態意義の解析を進める予定である。
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