本研究では試験管内プリオン増幅法を用いて、正常プリオンタンパク質(PrPC)に結合することで異常型プリオンタンパク質(PrPSc)への構造変換を抑制するプリオン病治療薬のスクリーニングを試みた。表面プラズモン共鳴イメージングよってPrPCに結合することが判明した化合物および、これまでにプリオン抑制効果が認められている化合物の計58種類の候補化合物をPMCA反応系およびプリオン感染細胞に添加し、抑制効果を検証した。 バキュロウイルス-昆虫細胞発現系にて発現させたPrPCを基質とした試験管内プリオン増幅法(PMCA)により、ヒトプリオン(クロイツフェルト・ヤコブ病:CJD)増幅系の構築を試みたが、現時点ではスクリーニングへの応用可能レベルには到達できていない。そこで遺伝性ヒトプリオン病GSS馴化株であるFukuoka-1株をターゲットとしてスクリーニングを行った結果、Fukuoka-1株の増幅を抑える4つの化合物を見出した。そのうち1つの化合物は感染細胞中のPrP-res(プロテアーゼ耐性PrP)を消失させたが、化合物存在下で継代培養を繰り返してもプリオン活性は低いながらも残存した。また、この化合物はPMCAにおけるプリオンの増幅を抑制するが、PMCAによる増幅を連続して行うと耐性プリオンが出現することが明らかとなった。Fukuoka-1株プリオン感染マウスへの治療効果を調べたところ、投与したマウスの生存期間(164.6±24.4日)は、無投与群(162.4±8.8日)と有意差はなかった。一方、感染90日後から化合物を投与したマウスの生存期間は延長した(180.2±16.0日)。 動物試験を行う前に迅速に耐性化を見出すことは治療薬開発の効率化の鍵となる。今後、試験管内プリオン増幅法(PMCA法、RT-QuIC法)が耐性プリオンの出現を予測するツールに成り得るか検討する。
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