研究実績の概要 |
慢性鼻腔炎症は精神神経疾患の危険因子となるが、その機構は明らかではない。マウスを用いた自身の研究成果は、慢性鼻腔炎症が嗅球においてグリア細胞の活性化、神経炎症、シナプスの減少を引き起こし、鼻腔炎症が長期に及ぶと嗅球が顕著に萎縮することを明らかにした。 本研究では、鼻腔炎症が脳組織の損傷を引き起こす最初期の機構を明らかにすることを目的とし、その経路として嗅細胞の軸索を介した神経経路と、髄膜免疫系の活性化を介した髄膜経路に着目した。C57BL/6Jマウスの両側鼻腔に生理食塩水もしくはリポ多糖(LPS)を10μLずつ投与、その12, 24, 48, 72時間後、2週間後に灌流固定し、頭蓋を含めた脳切片の免疫染色を行った。投与12, 24, 48時間後に新鮮脳組織及び新鮮髄膜を採取し、脳及び髄膜におけるサイトカイン/ケモカインの発現を、リアルタイムRT-PCRにより調べた。また、投与12, 24時間後にwhole mount髄膜の免疫染色を行った。 LPS投与後12~24時間に髄膜及び嗅球においてCCL2、CXCL2などのケモカインの発現が増加し、CCR2陽性細胞及びLy6G陽性細胞が嗅球に浸潤した。嗅球に浸潤したCCR2陽性細胞は炎症性サイトカインを発現した。これらの細胞は髄膜の静脈洞にも増加した。リンパ球系細胞は投与24時間後から嗅球に浸潤した。これらの末梢免疫系細胞はLPS投与2週間後には嗅球から完全に消失した。嗅球内のミクログリアは、LPS投与48時間後にもっとも大きな形態変化を示し、抗炎症性サイトカインを発現した。 以上の結果から、鼻腔炎症急性期には、髄膜免疫系の活性化、末梢免疫細胞の脳内浸潤を介して脳組織微小環境は一過性に炎症性に傾くが、脳内のミクログリアが活性化し抗炎症性サイトカインを産生することで脳組織は回復するのではないかと考えられた。
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