研究課題
2年次の研究実績をここに報告する。1-2年次に計画されていた計画1「ゲノム編集技術によるFUS変異ノックインマウスの作成と評価」については、初回 表現型解析をおよそ完了し、組織内分子変化の解析を継続中である。表現型に関しては DigiGait解析システムを用いた定量的な歩容半自動解析を活用し、ヘテロ変異体の前肢および後肢の運動機能に14月齢時点で有意な低下を認めた。ローターロッド結果と合わせて、その統計学的有意差も確定したデータを得た。脊髄組織の表現型解析としては、ヘテロ変異体の前角内の運動神経細胞数の減少、核膜の形態変化も定量的に測定する手法とを確立し解析評価を加えている。さらにモデルマウスでの核膜変性の分子生物学変化を明確に同定するため、ALS患者由来のヘテロFUS変異体を有するiPS細胞、健常者ドナー由来iPS細胞から人為的に作成したホモFUS変異体を有するiPS細胞をもとに運動神経細胞(MNs)を誘導し、RNA-seqの発現解析を遂行中である。また1年次計画として予定していた計画2「FUS変異マウスにおけるパラスペックル形成とRNA代謝異常」についても現在、上記マウスを用いた至適解析条件の検索を行っている。一方で今後のRNA代謝変化検索のための脳、脊髄のサンプリングについては、臨床研究「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態に関連する分子メカニズムの解明と効果的薬剤標的を同定するための臨床研究」として慶應義塾大学医学部 倫理委員会で承認を得て(承認番号20221155)、専門外来の拡張と共に着実にその試料数が増加している。行動解析および計画1で新たに得られた結果の関連解析とともに当初の目的である 長鎖ノンコーディングRNAの核内繋留や小ノンコ―ディングRNA のプロセシング異常、パラスペックルに関連するRNA結合タンパクの標的RNAのミスプロセス検索の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム編集技術によるモデルマウスの作成、表現型解析、そしてiPS細胞由来のMNsを用いて核膜機能異常に関連するALS病態の再現性の検証という点で順調に本プロジェクトは進行している。とりわけDigiGait解析システムを用いた定量的な歩容半自動解析法を活用することで、運動機能の差異を明確に示すことが可能となり、ヘテロ変異体の前肢および後肢の運動機能に14月齢時点で有意な低下を認められている。ヘテロ変異体を有する本モデルマウスでは、核膜、核膜孔の形態変化が示され、この所見はALS患者由来iPS細胞から分化したMNs、ヒトALS剖検脊髄組織においても再現される表現型であることが確認された。またこの核膜形態変化と合わせてそのRNA発現変化のスクリーニングについても、iPS細胞由来MNsを用いることで順調に進められている。まだpreliminary data ではあるが、これらの結果からFUS変異タンパクの新たな病態機序解明への切り口として、核膜における機能異常を示す分子変化に関連した知見が得られる見通しである。これらは計画2および計画3でのRNA代謝異常検索を遂行していく上で重要なステップであると考えている。
前述のとおり、ゲノム編集モデルマウスの生存および表現型解析において、思いがけず核膜機能異常を示す形態変化、分子変化をとらえることができている。この点をモデルマウス作成のモデルマウス作成の成果とあわせて早期に論文として発表する方針である。さらに本研究の従来の目的であるパラスペックル形成変化、sncRNAプロセシング異常、変異FUS・誘導されるパラスペックル蛋白、RNA pol IIのRNA結合パターン、スプライシングパターン、3’UTR開始点の評価を中心としたRNA代謝変化の探索を行っていく。以上の方策により、次年度計画の特異的ノンコーディングRNA阻害薬の開発のステップへとつなげていくことを目標として、当初の研究計画に沿って引き続き研究を推進していく予定である。
予定していた学会へ都合により参加できなかったため、さらに効率的な物品調達を行ったことによる。令和5年度の学会参加費および実験試薬費として使用させて頂く計画である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
Neurology
巻: 100 ページ: e264-e274
10.1212/WNL.0000000000201389.
BMJ Open
巻: 12 ページ: e049262
10.1136/bmjopen-2021-049262
https://www.neurology.med.keio.ac.jp/index.html