研究実績の概要 |
痛みは運動によって修飾を受けることが知られており、痛みを抑える目的で運動療法などが行われている。しかし、その除痛メカニズムは十分に解明されていない。痛みの感覚成分である痛覚は、主に大脳皮質一次体性感覚野(S1)で処理されていることから、大脳皮質一次運動野(M1)からS1への神経回路が痛みの抑制に寄与しているとの仮説を立て、検証を進めている。 まず、S1内での詳細な痛覚情報処理の機構の理解が必要であるため、本年度、S1における痛覚情報処理機構を解明し報告した(Osaki et al., Nat. Commun., 2022)。本研究成果では、痛覚情報が主に触覚情報が処理される領域とは異なる部位であるDysgranular領域において処理されていることを電気生理学的手法を用いて示すとともに、Dysgranular領域の活動抑制によって痛覚情報処理が抑制されることで、痛み行動が抑制されることも併せて示した。 また、M1からS1への投射回路では、抑制性介在神経を介した抑制性入力が働いており(Fukui, Osaki et al., Sci. Rep., 2020)、こうした入力がS1における痛覚情報処理に対して影響を与える可能性が考えられる。そのため、本年度は運動中のげっ歯類大脳皮質からCa2+イメージングにより神経活動を観察するためのイメージングシステムを立ち上げ、運動中の2次元活動マップを作製することを試みた。本顕微鏡を用いることにより、痛覚受容時の運動野から体性感覚野におよぶ広範な領域で単一細胞レベルに近い解像度でCa2+イメージングを行い、神経活動を捉えることが可能となった。今後、本顕微鏡にガルバノミラー制御による光刺激システムを組み合わせて、神経活動操作を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究計画の中核となる、一次体性感覚野における痛覚受容機構を電気生理学的手法および痛覚受容に伴う逃避行動を定量評価する実験により明らかにし、発表した(Osaki et al., Nat. Commun., 2022)。また、研究代表者の異動に伴い、実験システムを再構築したが、その過程で新たにCa2+イメージングを用いた、大脳皮質イメージングシステムを作成した。1光子イメージングであるため、観察範囲は浅層には留まるものの感覚野から運動野に渡る広範な領域を単一細胞レベルの解像度での観察も可能となっており、痛覚受容時の広範な神経活動の変化を捉えることが出来るようになった。
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