研究課題
In vivo studyアルツハイマーモデル(AD)マウスと野生型(WT)マウスにヘリコバクター・ピロリ菌(HP)を長期間(10ヶ月)感染させ、新奇物体探索テストにより認知行動/運動量の解析後に血液、脳と胃を回収した。コントロールとして、同齢のHP非感染ADマウスとWTマウスを用いた(AD±HP, WT±HPの4群)。新奇物体探索テストでの認知行動には4群間で差が見られなかったが、ADマウスでは運動量が亢進しており、特にAD+HPではWT+HPに比べ有意に増加していた。これは認知症に見られる徘徊行動に類似する状態であるといえる。HP+マウスでは血中エンドトキシン濃度が有意に増加していた事からHP感染によって消化管がリーキーな状態になっていることが分かった。HP+マウス脳内ではミクログリアの活性化が認められたが、HP-との差は以前に解析した感染5ヶ月後の方が顕著であった。In vitro studyこれまでの動物実験解析からHP感染による脳ミクログリアの活性化にはHPが産生する外膜小胞(OMV)が影響している事が考えられたため、ピロリ菌からOMVを回収し、脳の細胞への影響を調べた。WTマウスから脳グリア細胞を回収し、OMVを暴露したところ、IL-6, IL-1bなどの炎症性サイトカインが増加した。脳グリア細胞には主に3種の細胞(ミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト)が混在しているため、それぞれへの影響を調べるため細胞株にOMVを暴露しサイトカインのmRNAを調べた結果、オリゴデンドロサイトは全く反応せず、ミクログリアが最も強く反応した。このことは動物実験結果と一致していた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は予定通りではあるがHP感染マウスの飼育期間が長くかかったため、組織を用いた詳細な解析は今後進めていく。また、HP急性感染(2週間)での脳ミクログリア活性化を追加で調べたが、非感染マウスに比べ低下していることが分かった。このことから、HP感染の期間によって病態が大きく異なるという非常に興味深い知見が得られた。一方で細胞を用いた研究は予定通り進んでいる。当初は細胞株を用いた研究のみを計画していたが、初代培養細胞を用いることでより生体に近いデータを得られるということを学会で指摘されたこともあり、マウスからの単離培養を確立させ研究対象として用いた。この初代培養細胞の結果と細胞株の結果を合わせることで、より深い考察ができている。MSに関しては感染動物の飼育スペースの都合上、感染実験ができていないが、ADマウスの長期感染が終了したことから、今後実施する。予算に関して、今年度はマウスの解析が進んでいないため未執行経費があるが、残りの2年間でトランスクリプトーム解析などを計画しており、それらに計上する予定である。
HP長期感染マウスから得られた血液や組織を用いて、サイトカインや炎症などを調べる。また、脳のRNAを回収しトランスクリプトーム解析を実施する予定である。培養HPから回収したOMV関して、核酸がその作用本体である可能性が考えられたことから、HP感染マウス血液中に存在しているOMVに含まれる核酸がどういったものを含有しているのかを解析する。手法として、新たに共同研究者が導入したMinIONを用いた解析を実施する予定であるが、手技的に困難であった場合は、外部への委託研究も視野に入れている。HP感染マウスの脳病態への除菌効果を調べる実験では、抗菌薬の投与を予定しているが、抗菌薬を飲水中に添加すると、飲水しなくなる状況が起きており、これらの解決方法を探っている段階である。これらが解決した後、実験を開始する。MSマウスへの感染実験も実施予定である。
初年度は感染マウスの飼育期間が長く、その解析は2年目以降に実施するため、未執行経費が高額となった。今後はトランスクリプトーム解析など、比較的高額の解析やELISAなどを購入する。またMSモデルの購入も2年目以降になるため、研究期間全体としては計画通りの使用になる。
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Sci Rep.
巻: 12 ページ: 6100
10.1038/s41598-022-10089-z
Scientific reports
巻: 11 ページ: 9242
10.1038/s41598-021-88824-1