研究課題
アルツハイマーモデル(AD)マウスと野生型(WT)マウスにヘリコバクター・ピロリ菌(HP)を長期間(10ヶ月)感染させたのち、脳を回収した。脳からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を実施した(外部注文)。得られたデータを解析した結果、いくつかのことが明らかとなった。まず、WTとADマウスでの比較ではこれまで既知である炎症性細胞のマーカータンパク質やプリオンの増加がみられ、再現性の確認ができた。WT+HP群ではストレスタンパク質であるHSPなどが増加する事がわかった。AD+HP群ではオートファジーに関連する遺伝子が多数増加していた。これらの結果は胃にHPが感染することが脳での遺伝子発現に影響を与えていることを示唆した。次に脳のアミロイドβの蓄積を組織免疫染色法によってAD±HPで比較した結果、意外なことにHP感染群で低下していた。この結果は脳のトランスクリプトーム解析でAD+HP群でオートファジーが増加したこととは相関がある。しかしながら、このマウスで得られた結果は人での疫学調査結果とは相違するものであった。今回のマウスHP感染実験で用いたシドニー株が何らかのオートファジーインデューサーとなる分子を分泌しているならば、むしろ治療への応用に使える可能性がある。そこで、HPが産生する外膜小胞(OMV)がオートファジーに与える影響を種々の培養細胞で調べた。マウス神経芽腫細胞(Neuro2A)、ミクログリア(MG6)はHP-OMVでオートファジーが増加した。アストロサイトのLC3IIは正常状態でも非常に多かったがOMV添加による変化はなかった。このことから、HP-OMVは神経細胞やミクログリアにオートファジーを誘導する作用があることが分かった。
3: やや遅れている
今年度はトランスクリプトーム解析結果から得られた「HP感染ADマウスでオートファジーが増加する」という知見を更に詳細に解析することを中心にした。HP感染、非感染マウスから調整した脳組織切片を用いたオートファジー関連タンパク質の変動解析とin vitro実験を行った。in vitroでは明瞭な結果が得られたが、組織免疫染色では抗体がうまくワークしない場合があり、改良の余地が多くある状況である。今後は異なるマーカーを入手し、実施する計画である。また、本研究に関する論文執筆とリバイスによる追加実験に比較的多くの時間を費やしたこともあり、予定よりは若干進捗が遅れてしまった。
これまでにHP感染マウスで得られた脳病態の変化は感染後一定期間を経て除菌をするとどうなるのか、を明らかにするため、HP感染3ヶ月後にプロトンポンプ阻害剤、クラリスロマイシン、メトロニダゾールを投与することで除菌をする。更に3ヶ月の飼育後に脳を回収し、脳内アミロイドβレベルやミクログリアの活性化やオートファジーレベルを調べる。また、アルツハイマーモデルマウスの1つであるタウタンパク質トランスジェニックマウスを学内研究者から入手できることになったので、このマウスを用いた感染実験を実施する予定である。
理化学研究所のADモデルマウス入手を当初は予定していたが、よりAD様症状発現が早くかつ強い、タウタンパク質トランスジェニックマウスを当方大学内の研究者から貰えることになったため入手を中止した。このことから予算の未執行が多くなった。また、抗体類は以前に入手していたものがまだ使えたことから、入手を先に伸ばすことにした。繰越しとなった助成金に関しては、アミロイドなどのアルツハイマー関連分子やオートファジー関連タンパク質の抗体セット、サイトカイン測定用のELISAキット、マウスなどに使用する計画である。
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