研究課題
遺伝子の発現制御に染色体の高次構造が大きく影響することが明らかとなってきたが、脳神経系での役割は不明な点が多い。高次染色体構造形成に重要なCCCTC結合因子(CTCF)に着目し、脳神経系での役割や疾患との関係を明らかにするため研究を進めてきた。運動制御の中枢である小脳では、CTCFはプルキンエ細胞(PC)で強い発現を示すことがわかった。本研究では、小脳プルキンエ細胞でCTCFを欠損したマウス(CTCF-cKO)を作製して解析をおこなった。CTCF-cKOマウスは、生後3週間頃から発育不全が認められ、フットプリントによる歩行解析やロータロッドテストによる協調運動・運動学習解析などからCTCF-cKOマウスは進行性の運動障害を呈することがわかった。免疫組織科学的解析から、PCの樹状突起に自己回避の異常が見られること、樹状突起上の登上線維からの神経支配領域が細胞体側にシフトすることを見出した。また、PCの樹状突起の分岐部位に膨らんだ形状が認められ、電子顕微鏡による観察から樹状突起中にGiant Lamellar Body(GLB)が形成されることを見出した。GLBは、およそ40年前よりウェルドニッヒ・ホフマン病、13q欠失症候群、クラッベ病で報告例があり、神経変性疾患との関連が示唆されてきた。CTCF-cKOマウスの詳細な解析の結果、GLBは小胞体が層状に集積することで徐々に形成され、時間とともに巨大化していくことが明らかとなった。一方、細胞核周辺の小胞体は著しく減少し、最終的にPCが小脳から消失することがわかった。また、これに伴いCTCF欠損マウスの運動機能が著しく低下することがわかった。本年度は、これらの研究成果をまとめて論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
高次染色体構造形成に重要なCCCTC結合因子(CTCF)に着目し、免疫組織科学的解析から運動制御の中枢である小脳のプルキンエ細胞(PC)で強い発現を示すことがわかった。PC で発現するGrid2-Cre依存的にCTCFを欠損したマウス(CTCF-cKO)を作製し、小脳の機能やPCの形態に与える影響を解析した。フットプリントによる歩行解析やロータロッドテストによる協調運動・運動学習解析などからCTCF-cKOマウスは運動障害を示すことがわかった。PCの樹状突起の形状を詳細に調べた結果、同じPCから伸びた樹状突起同士が交差する自己回避の異常が見られることがわかった。同様の異常はクラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)の欠損マウスでも報告されており、CTCF-cKOのPCでcPcdhの発現を解析した結果、顕著に低下していることがわかった。また、PC樹状突起上の登上線維終末の分布を調べた結果、control群に比較してPCの細胞体側にシフトしていることがわかった。生後3週間と比較して、生後60日目にはPC樹状突起の分岐部位が著しく膨らんだ形状が認められた。電子顕微鏡による観察から、PC樹状突起の膨張部位には扁平な小胞体が層状に集積したGLBが形成されていることがわかった。GLBの経時変化を観察した結果、徐々に巨大化していくことが明らかとなった。一方、細胞核周辺の小胞体は減少していき、最終的にPCが小脳から消失することがわかった。研究計画に添って研究を進めることができており、おおむね順調に進展していると評価した。
現在のところ、おおよそ研究計画どおり順調に進んでいる。今後も基本的に研究計画に沿って研究を推進していくことを第一としたい。研究の進捗により得られた結果を受けて、新たな科学的問いも生まれてきており、そこに対して実験的アプローチを試みることで本研究計画をさらに発展できるよう取り組む。また、これまでに得られた研究結果により、ヒトの症例報告でのみ知られていたGLBが遺伝子改変マウスで再現することができた。このモデルマウスを活用することで、GLB形成の分子メカニズムに迫っていきたい。
前年度にコロナ禍での対応のため動物を最低限で維持するようにしたこと、学会等への参加を控えたことなどで本年度に繰り越された費用があった。本年度は、研究が順調に進み、学会に参加して発表をおこなうなどしたが、研究成果を論文にまとめる作業や投稿などに費やす時間がかかり、昨年度の繰越分を使用するまでには至らなかった。次年度は、当初の計画に沿って研究を遂行し、本年度の繰り越し分とあわせて研究成果が得られる可能性の高いところには積極的に予算を使用する計画である
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iScience
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