研究課題/領域番号 |
21K07295
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
泉 仁 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 准教授 (60420569)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腱板断裂 / 疼痛 |
研究実績の概要 |
実験1について、9週齢雄SDラットの左肩に対し、棘上筋・棘下筋腱を完全切除したL群、3mmの骨生検針で両腱の大結節付着部を穿孔したS群、S群の断裂部に100回のラスピングを加えたS+群、腱板の観察のみのSham群を作成した。行動学的評価として、術前、術後2、4、6、8週目に解析装置で荷重分布、接地時間、接地面積を抽出した。関節可動域評価として術後4、8週目に両手関節に絹糸を掛けて麻酔下に1Nの力で牽引して肩甲棘と上腕骨軸の成す角度を測定した。組織学的評価として、術後4週、8週時に左肩を摘出して切片を作製し、Masson-Trichrome染色で断裂部周囲の瘢痕形成の程度を、HE染色で瘢痕内の炎症細胞浸潤の程度を定量化した。また、免疫組織化学的評価として、C4,5,6の患側DRGを摘出して冷凍切片を作成し、CGRP陽性細胞率を測定した。 行動学的評価(患健比)は、L群、S+群では術前、Sham群と比較して14日目以降に有意に低下していたが、S群では変化を認めなかった。可動域は各群のどの時期においても同様で、断裂に伴う拘縮や異常可動性は認めなかった。組織学的評価について、L群では腱板断裂部周囲に旺盛な瘢痕形成を認めていたのに対し、S群、S+群では瘢痕形成の程度は乏しかった。瘢痕内の炎症細胞浸潤の程度は各群のどの時点でも同様であった。CGRP陽性細胞率は、L群では4週、8週時ともに高い陽性率であった。S群はSham群と同程度であったが、4週時のS+群はL群と同程度に高い陽性率であった。ラットモデルを用いた行動学的評価、関節可動域評価、組織学的評価、DRGの免疫組織化学的評価の結果から、断裂サイズで比較すると断裂が大きいことが疼痛の強さと関連していることが分かった。しかし、断裂が小さい場合でも断裂部への機械的刺激で疼痛が増悪することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験1(動物実験)については、予定していた腱板小断裂、大断裂モデルに、小断裂+ラスピングモデルも加えて、各群における行動学的評価、関節可動域評価、組織学的評価、DRGの免疫組織化学的評価を行うことができた。得られたデータを解析し、いくつかの国内学会で発表してブラッシュアップを図ることができた。実験2(臨床研究)については、腱板断裂患者における疼痛感作の程度を簡易QSTツールを用いて定量評価しているが、昨年度は実験1を優先して進めてきたため、進捗は10例未満にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
実験1について、脊髄の免疫組織化学的評価は一部を除いて未実施であるが、標本は摘出して、固定保存しているため、今後染色して評価を進める予定である。実験2(臨床研究)については、われわれが別途進めている、「腱板断裂患者に対するヒアルロン酸またはリドカイン+ステロイドの関節内注射の鎮痛効果」をテーマにしたランダム化比較試験の一部に組み込むことで、データ採取を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症のため、国内・国際学会への現地参加ができず、計上していた旅費が使えなかったことが主な理由であるが、学会参加のハードルも少しずつ下がってきているようなので、次年度以降に使用する予定である。実験1の脊髄の免疫組織化学的評価は次年度以降に行うこととしたので、それに関連する抗体などの試薬の購入や切片作製・染色補助などの謝金に使用する予定である。
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