研究実績の概要 |
実験1:9週齢雄SDラットの左肩に対し、棘上筋・棘下筋腱を完全切除したL群、3mmの骨生検針で両腱の大結節付着部を穿孔したS群、S群の断裂部に100 回のラスピングを加えたS+群、腱板の観察のみのSham群を作成した。各モデルに対して、行動学的評価(術前、術後2、4、6、8週)、関節可動性・安定性評価 (術後4、8週)、肩の組織学的評価(術後4、8週)、肩と脊髄後根神経節に発現する疼痛関連分子の評価(術後4、8週)を行った。各項目の評価により、断裂サイズが大きいと強い痛みを生じることが示された。一方、小さな断裂でも腱板の変性によって疼痛が増加し、末梢の神経成長因子NGFによって引き起こされた神経ペプチドCGRPの発現亢進がその一機序と考えられた。
実験2:55例の腱板断裂患者において、痛みVASは安静時/運動時/夜間就寝時でそれぞれ11 ± 16/62 ± 22/45 ± 32 mmであり、有痛期間は6.5 ± 7.1 か月であった。疼痛感作の指標については、圧痛閾値(PPT)が35 ± 15/41± 17 N(患側/健側)、時間的加重(TSP)が19 ± 19 mm、条件刺激性疼痛調節(CPM)が 8.5 ± 7.9 Nであった。精神心理的要因として、破局的思考(PCS)、中枢性感作症候群(CSI)、不安・抑うつ(HADS)も調査した。安静時痛VASと患健側のPPTは有意な負の相関(r = -0.360, -0.365)を認め、局所および遠隔部位における痛覚過敏の関連が示唆されたが、運動時痛や夜間痛とは相関しなかった。中枢神経系の変調を反映するTSPやCPMは疼痛強度や期間と相関しなかった。一方、安静時痛VASはPCS、CSIとも有意な正の相関(r = 0.582, 0.382)を認めており、患者の痛みを多面的に評価することの重要性が示された。
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