研究課題/領域番号 |
21K07299
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
田口 勝敏 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60462701)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Parkinson's disease / Lewy body / α-Synuclein / Seed / Cell-cell transmission / Prion-like propagation |
研究実績の概要 |
パーキンソン病に特徴的な病理所見である細胞内凝集体「レビー小体」の形成領域は病期の進行に伴って脳幹から大脳皮質へ上行性に拡大する。現在、この分子的背景には「プリオン様細胞間伝播」の存在が指摘されている。何らかの原因で高分子化した α-Synuclein(αSyn)を主要構成成分とする「種“Seed”」が細胞内へ取り込まれることから始まり、神経細胞に内在的に発現するαSynがSeedに重合することで最終的にはレビー小体の形成につながると考えられているが、そのプロセスには未だ不明な点が数多く残されている。 本研究では、αSynの内在性発現レベルに着目すると共に、レビー小体様凝集体を有する病態神経が分泌した細胞間伝播性 Seed をマイクロ流路によって分離し、その構成分子を同定、詳細に解析することによって Seed 産生メカニズムを明らかにすることを目的とする。更に、Seed を標的とした伝播阻害ストラテジーの確立を目指す。具体的には Seed 産生プロセスの阻害、及び Seed 構造特異抗体による細胞間伝播の阻害により効率的な神経保護を図る。また、「老化」と「繰り返す神経興奮」が αSyn 高分子化を引き起こすとの仮説を立て、一過性脳虚血及びてんかんモデルマウスを用いてこれを検証する。 当該年度はマイクロ流路を用いて回収したSeedについて、質量分析法を用いた生化学解析を通じて、Seedを構成するαSynに特徴的な分子修飾の検索を行うと共に、その凝集形成への関与についてcell-base assayによる評価系を確立した。また、αSynの内在性発現レベルに関する研究では、ヒト大脳皮質におけるαSynの発現解析を実施し、αSynの細胞種に依存したヒト特徴的発現プロファイルについて学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ流路を用いてSeed画分を回収し、この生化学画分を出発材料として質量分析法および免疫電顕法を用いた解析によって、Seedを構築するαSynに特徴的な分子修飾パターンを複数見出すことができた。得られた情報を基に、αSynに対するこれら様々な分子修飾が初代培養神経細胞におけるレビー小体様凝集体形成にどのような影響を与えるか、定量比較するための評価系を確立した。現在、この系を用いて、凝集形成、Seed形成、細胞間伝播に必須となる分子修飾の特定作業を進めている。同時に、これらの分子修飾に関わるシグナル伝達系、分子間相互作用に着目し、効率的に分子修飾を阻害するための薬理学的実験も開始している。以上の研究を通じて、Seedの形成と細胞間伝播メカニズムを明らかにするとともに、これらを効率的に阻害する方法について検討を進めている。 過去の多くの報告により、αSynの内在性発現レベルがレビー小体様凝集体の形成に影響する重要な因子であることが明らかとなっている。我々はこれまでに、マウス脳を用いた組織学的解析により、αSynの内在性発現レベルが神経細胞の種類及び脳部位によって大きく異なることを報告してきた。現在、ヒト脳内におけるαSynの発現プロファイル解析を進めており、マウス脳と共通するパターンとヒト脳に特徴的な発現パターンを見出した。当該年度では本結果を基に、第44回日本神経科学大会および第127回日本解剖学会総会・全国学術集会にて一般演題発表を行った。今後はヒト脳特異的な発現パターンに着目することによりαSynの生理機能を明らかにすると共に、疾患(細胞障害性)への関与について検討する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はSeedを構成するαSynに特徴的な分子修飾に関する情報を基に、凝集形成、Seed形成、細胞間伝播に必須となる分子修飾を特定する。更に、これらの分子修飾を阻害するための方策について検討する(以下に計画概要を示す)。 1. 薬理学的手法:それぞれの分子修飾に着目し、これらの修飾を阻害する薬剤を検索し、神経保護に有効な阻害剤を特定する。 2. Seed特異抗体の作製と伝播抑制効果の検証:Seed画分を用いてマウス脾臓細胞を免疫する。その後、脾臓細胞はミエローマと細胞融合させ、ハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中から、dot blot assay とELISA により Seed構造にのみ反応する「構造特異抗体」を産生する細胞を選別する。抑制効果の検証については、マウス線条体に PFF を注入すると共に、大脳皮質内へ構造特異抗体(あるいは正常マウス由来精製 IgG)をOsmotic pumpを用いて持続投与する。PFFを注入後、30日目に灌流固定を行い、大脳皮質における凝集体形成効率を抗リン酸化αSyn抗体による免疫染色によって評価する(レビー小体を構成する αSynはリン酸化修飾されている)。※実験遂行上の工夫:臨床応用を考慮し、抗Seed構造特異抗体の側脳室内投与、及び末梢(尾静脈)投与も試みて、その阻害効果を検証する。 3. Seed産生機構の解析:異常な神経興奮(神経活動亢進下)において、Seed産生が亢進するとの仮説を立て、これを検証する。老化マウス(15ヶ月齢以上)を用いて病態モデルマウス(一過性脳虚血モデルおよびてんかんモデル)を作製し、異常な神経興奮とSeed産生(αSyn 高分子化)の関係について、Seed構造特異抗体を用いて解析する。
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