研究課題/領域番号 |
21K07306
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
長谷川 潤 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (10332230)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / ミクログリア / アストロサイト / エストラジオール / 卵巣 |
研究実績の概要 |
本研究では、発症後の脳梗塞の病態進行に、卵巣ホルモン及び細胞性免疫がどのように関与するか、またホルモン療法が脳梗塞の予後を左右するかを明らかにすることを目的としている。 2022年度は、卵巣摘出を施した雌マウスに光血栓性脳梗塞モデルを作製し、その後7日目までエストラジオール(E2)又は溶媒を投与することで、雌マウスにおけるエストラジオールの効果を検討した。その結果、E2投与マウスではミクログリアの活性化が抑制された一方、アストロサイトの反応性が上昇していることが分かった。我々はこれまでに、光血栓性脳梗塞モデルにおいては、ミクログリアの活性とアストロサイトの反応性が逆相関することを見出しており(Kondo et al., 2022)、本結果も同様の結果を示していた。一方、光血栓性脳梗塞モデルを作製した雄マウスにE2を投与し、7日後の脳梗塞部位の状態を観察したところ、卵巣摘出雌マウスほどE2の顕著な効果は認められなかった。このことからE2の効果は卵巣ホルモン以外の性差因子により影響を受けることが分かった。卵巣摘出雌マウスの脳梗塞部位から抽出したRNAを試料としてRT-PCR法を用いたcandidate screeningを行い、E2が発現に影響する分泌因子の同定を行ったところ、いくつかの炎症性サイトカイン類が候補因子として見つかった。現在、雄マウスからのRNAを用いて検証を行い、E2による脳梗塞部位炎症反応抑制に関与すると考えられるサイトカインの確定を試みているところである。 細胞性免疫については、脳梗塞作製後7日目、14日目の組織切片を、抗CD3,CD4,CD8抗体を用いた免疫染色を行ったが、脳梗塞部位には明確なシグナルは観察されなかった。従って、光血栓性脳梗塞モデルにおける脳炎症には、T細胞の関与は薄いと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣摘出雌マウス及び雄マウスにE2を投与したマウスでの、脳梗塞部位のグリア細胞に関わる知見を得て、比較することが出来た。また、E2の効果を仲介する可能性がある分泌因子の候補も同定できている。さらに、当初の想定とは異なっていたが、光血栓性脳梗塞モデルにおいては、病態進行にT細胞が関与しないこともほぼ確定できた。 これらのことから研究は概ね順調に進んでおり、最終年度に向け十分な予備的知見を得ることが出来たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)E2の効果を仲介する可能性がある分泌因子の候補が同定できているので、それらの検証を行う。またそれらの分泌因子がどの細胞種により産生されるのかを明らかにする。 (2)卵巣ホルモンとしてはE2に加えてプロゲステロン(P4)も重要な生理機能を担っている。そこで、P4単独及びE2とP4の同時投与が脳梗塞の病態進行をどのように左右するかを、これまでと同様の研究手法により検証する。 (3)光血栓性脳梗塞モデルの病態進行においては、T細胞の関与は薄いことが分かったが、一方で胸腺や脾臓に対しての影響は観察される。そこで、脳梗塞を発症した後の胸腺や脾臓の組織的な変化及びそれらに対するE2及びP4の影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね予定通りに使用した。 一部次年度使用額が生じたのは、当初E2の効果を仲介する分泌因子の同定を行うために次世代シークエンス解析を行う必要が生じると考えていたが、RT-PCR法によるcandidate screeningにより候補因子が同定できたため、その分の費用が未使用となっていることによるものである。2023年度に同定済みの候補因子の検証を行うが、その結果、現在のものが目的とするものではなかった場合は、あらためて次世代シークエンス解析を行う予定である。またP4の効果がE2以上に顕著に見られた場合は、P4単独投与又はE2及びP4の複合投与を行った試料を用いて次世代シークエンス解析を行う予定である。
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