研究課題/領域番号 |
21K07309
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
田畑 秀典 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 分子病態研究部, 室長 (80301761)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アストロサイト / 大脳皮質発生 / リゾホスファチジン酸 / 神経発達障害 |
研究実績の概要 |
アストロサイトは哺乳類大脳の主要な構成要因であり、神経細胞がネットワークを形成する時期に増殖し、移動し、配置する。またアストロサイトはシナプス形成に重要な役割を果たすことが知られている。このことから、アストロサイトが正しいタイミングで移動し配置することが、神経細胞の正常なネットワーク形成に必要であり、これらの過程に何らかの障害が発生することで、発達障害の発症につながることが予想される。しかしアストロサイトの発生は不明な点が多く、その解明が待たれていた。我々はアストロサイト前駆細胞が移動方向を頻繁に変化させる不軌道性移動と、血管に沿う血管ガイド移動をスイッチしながら脳表面側へと移動することを見出した。本研究では我々が明らかにしたアストロサイトの移動機構を基礎として、発達障害との関連が既知である遺伝的要因と環境要因による撹乱、およびその結果として引き起こされる神経ネットワークの形成障害を明らかにすることを目標とする。アストロサイト前駆細胞の血管ガイド移動において、Cxcr4/7の下流でIntegrin β1が関与する所見を得ていたが、機能回復実験等によりこれを確かめ、これらの成果を論文発表した。母体へのある種の炎症反応は胎児の神経発達障害のリスクとなる。このような場合、アストロサイトの発生が影響を受けるかを検討している。妊娠17日目マウスにおいて、炎症反応を引き起こすリゾホスファチジン酸(LPA)を胎仔に投与したところ、生後、アストロサイトの皮質内での分布に異常が生じた。LPAは特異的受容体であるLpar1を介して炎症シグナルを伝える。Lpar1はアストロサイト前駆細胞に強く発現するため、lpar1遺伝子をノックダウンしたところ、血管ガイド移動の時期において血管からの離脱が増加し、さらに最終配置が乱れることを観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の根幹となるアストロサイトの正常発生に関して、その分子機構も含めて明らかにすることができ、権威ある学術誌に掲載された。また母体炎症反応モデルとして、マウス胎仔へのLPA投与実験系が順調に機能しており、LPA投与によるアストロサイト前駆細胞の移動過程への影響や最終配置の異常が観察されてきている。またその受容体のノックダウンにおいても興味深い知見が得られている。遺伝要因への影響はやや遅れているが、候補分子のノックダウンベクターを作成中であり、順次、血管との相互作用や配置への影響を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
がん細胞や血管壁細胞などの多くの細胞系において、Lpar1受容体を介したLPAシグナルはIntegrinを活性化し、遊走や接着に関与する。アストロサイト前駆細胞の血管ガイド移動において、Integrin β1はCxcr4/7の下流で働くことをすでに見出しており、LPAシグナルとのクロストークが予想される。母体炎症反応がLPAシグナルを活性化し、そのクロストークを介して血管ガイド移動に影響を及ぼす可能性を検討する。Lpar1および Cxcr4/7に共通して働く下流分子に着目して、アストロサイト発生と炎症反応の接点を探る。キーとなる下流分子が見つかれば、それをアストロサイト前駆細胞特異的にノックダウンし、神経ネットワーク形成への影響を検討する。遺伝要因に関しても、自閉スペクトラム症との関連の強い遺伝子に焦点を絞ってアストロサイト発生に関わるものを探索する。同様に、神経細胞そのものではなく、アストロサイト前駆細胞側で機能阻害を起こした際の神経ネットワーク形成への影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文作成とそれに向けた追加実験に多くの時間を割いたため、遺伝要因の候補分子に対するベクターを作成できなかった。令和5年度はこれらのベクターを作成するための試薬やノックダウン効率を検証するための抗体を購入する。
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