研究課題
発生/発達期大脳において、アストロサイトはシナプス形成、成熟、刈り込み過程に直接的に関わり、高次脳機能の発達に不可欠である。我々は大脳皮質アストロサイト前駆細胞が、移動方向を頻繁に変えながら速く移動する不軌道性移動と、血管を足場とした移動をスイッチしながら皮質板に侵入し配置すること、血管ガイド移動の分子機構として、ケモカインとその受容体であるCXCL12とCXCR4/7、またその下流でインテグリンβ1が関与することを明らかにした。本年度は、我々が明らかにしたアストロサイト発生機構に影響を与えうる環境要因の探索を進めた。妊娠中のある種の感染症や強いストレスは母体に炎症反応を引き起こし、自閉性スペクトラム症を含む発達障害のリスクを高めると考えられている。その状態を模倣するため、炎症の脂質メディエーターとして知られるリゾホスファチジン酸(LPA)を妊娠後期胎仔脳室内へ投与した。その結果、アストロサイト前駆細胞は対照群に比べて血管に強く結合した。LPAはその受容体であるLPAR1を介して、炎症シグナルを伝えることが知られている。LPAR1はGタンパク質共役型受容体であり、さまざまな3量体Gタンパク質を介してシグナルを伝える。その中でもアストロサイトでの発現が強いGnai2をノックダウンすると、やはりLPAによる血管接着活性を阻害することができ、逆に恒常活性型Gnai2の強制発現により、LPA非依存的に血管に強く結合することが観察された。またこの実験個体の生後8日目には、アストロサイトの配置異常が観察された。さらにLPA投与マウスでは、生後に樹状突起スパイン密度と成熟度の低下が観察された。以上のことから、炎症反応によりアストロサイトの血管ガイド移動が障害され、結果としてシナプス形成に影響する可能性が示唆された。
3: やや遅れている
胎仔へのLPA投与は胎仔への炎症反応を直接的に模倣することができるが、本来の目的である母体炎症反応を正確に見ていない。このギャップを埋めるため、母体炎症を引き起こす大腸菌細胞壁由来糖脂質(LPS)やウイルス感染を模倣するポリI:C投与を試みている。その実験系の確立や解析手法の整備に時間を要した。
母体へのLPS投与、ポリI:C投与により、アストロサイト発生が、LPA投与と同様に影響を受けるかを確かめる。また、このような母体炎症反応により、胎仔脳におけるLPA濃度が増加するかを確かめる。血管との親和性は、オリゴデンドロサイトや神経細胞においては分化段階に影響するため、母体炎症反応は、アストロサイトの分化にも影響を及ぼす可能性がある。中でもシナプス形成に関わるSparcl1発現等への影響は重要である。培養アストロサイトの系も併用して、母体炎症反応がアストロサイト前駆細胞の分化に与える影響を探索する。
母体炎症モデルの確立や解析手法の整備に時間がかかった。すでに系は確立しているので、順次、アストロサイト発生への影響を定量的に評価する。妊娠マウスの購入に50,000円、組織解析のための消耗品、抗体の購入に180,000円を充てる。
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