研究課題/領域番号 |
21K07313
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴崎 孝二 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医(出向) (20625735)
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研究分担者 |
小川 純人 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20323579)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 老年症候群 / リハビリテーション / 嚥下障害 / 排尿障害 / 日常生活動作 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はリハビリテーション阻害因子となる老年症候群を網羅的に解析し、脳血管障害や骨折によりADL低下を来たした高齢者に対し、効果的なリハビリテーション介入方法を確立することである。 研究はおおむね予定通りに進み、脆弱性骨折後の嚥下障害の簡易的スクリーニングツールを開発した。脆弱性骨折後のポリファーマシーがリハビリテーションに及ぼす影響についての検討及び、脳血管障害、骨折患者の排泄障害とリハビリテーション介入効果の検討においても目標症例数の登録が終了した。3つのコホート研究の目標症例数に達し、解析結果も有用なものであることを確認した。これらの結果は2023年11月アジア嚥下学会(韓国)において2演題、2023年11月World congress of Neurology(カナダ)1演題学会発表を行った。論文発表は2023年に1本査読付き英語論文発表を行った。2024年度中に解析、学会発表、論文発表を行う予定であり、順調に研究が進行していると考えている。 研究開始の2021年度から本報告書作成時点までで3本の査読付き英語論文発表(1本筆頭著者、2本共著者)、3演題の国際学会発表、1演題のシンポジウム発表、3演題の国内学会発表を行い成果発表も予定通りである。さらに現在1つの英語論文(筆頭著者)と2つの英語論文を執筆中である。 今後の課題としては脆弱性骨折後の嚥下障害がまだまだ認識されていないこと、海外の食事形態での応用が出来ていないことである。2024年度には学会発表、論文発表を行うととこに、この2つの課題に対する検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では3つのコホート研究を実施中である。1つ目は脆弱性骨折後の嚥下障害発生状況調査と、言語聴覚士介入の有用性についての検討を行った。目標症例数1000人に対し、2024年3月の時点で予定通りの1000人に達した。1日当たりの摂取カロリー800Kcal未満、性別が男性であること、食事形態が悪い(通常食に比べて、お粥やミキサー食、経管栄養であること)が総死亡や肺炎死亡に有意に関連していることが分かった。Cox比例ハザードモデルを用いて、年齢、基礎疾患、血清アルブミン値などを補正して計算しても同様の結果であった。この結果について英文雑誌に投稿中である。 さらに、脆弱性骨折時にアルブミンが低いことは肺炎、尿路感染症、褥瘡の合併症発生率が有意に高く、入院期間の延長に関連していることを示した。また、脆弱性骨折後に肺炎を発症した群は発症しなかった群と比べ有意に入院日数が長く(77.2±23.5 vs 100.4±43.1, p=0.001)、入院費用が高かった(2748460±868670 vs 3498270±1577110, p=0.018)であった。入院中に細菌性肺炎、誤嚥性肺炎を防ぐことで入院日数の短縮、コスト軽減が出来る可能性が示唆された。 2つ目は、脆弱性骨折後のポリファーマシーがリハビリテーションに及ぼす影響についての検討である。回復期リハビリテーション病棟入院中にポリファーマシーを是正することがADL改善、リハビリテーション効果向上に寄与するかどうか検討している。目標症例400例に設定し、2021年には217例の症例が登録され、査読付き英語論文を発表した。すでに目標とした400症例の登録が終了し、解析、論文執筆中である。 3つ目は脳血管障害、骨折患者の排泄障害とリハビリテーション介入効果の検討である。すでに目標とした800症例の登録は終了して、解析、論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の研究は2021年度~2023年度に収集したデータの解析、論文発表、開発したスクリーニングツールの応用性を検討する予定である。 本年度は4年間の研究期間の最終年度である。前向きコホート研究の症例登録は終了している。引き続き、症例の追跡、データ収集と解析、学会発表や論文発表を積極的に行う予定である。予定していた研究計画は予定通り進捗しており、今後も現在のペースを維持して行う予定である。2023年度のみで2023年11月World congress of Neurology:カナダ、2023年11月アジア嚥下学会:韓国と、2つの国際学会で合計3演題の発表を行った。本報告書作成時点で英語論文1本投稿中、さらに2本の英語論文執筆中である。 研究の結果も興味深い内容になり、脆弱性骨折後の嚥下障害に対する新たなスクリーニングツールとなりうる結果であった。論文発表後には、このスクリーニングツールが他の施設でも有用であるか、脆弱性骨折患者以外でも有用であるかなどの検討を行う予定である。さらにリハビリテーションデータベース、DPCデータベースなど大規模データベースを用いて脆弱性骨折患者を抽出し、ADL改善指標、生命予後改善指標になりうるかを検討予定である。 研究の課題として、脆弱性骨折後の嚥下障害がまだまだ認識されていない点である。積極的に学会発表、論文発表を行い、周知に努める。また、食事内容は国によって変わる点も課題である。本研究の嚥下障害は主食(米飯)と副食(おかず)に分類して嚥下障害を検討したが、アジア以外の国では米飯の摂取頻度が低い。現在、海外の嚥下障害スクリーニングツールと本スクリーニングツールの関連を検討しているところであり、両スクリーニングツールの互換性の検証している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度から開始した本研究は新型コロナウイルスの影響を受け、資金計画と実際に使用した金額に差が生じた。2021年度~2023年度中に申請者の所属する病院で3度の新型コロナウイルスクラスターを経験し、そのうち一度は申請者も新型コロナウイルスに罹患するなど、新型コロナウイルスの影響があった。2023年度には国際学会発表を現地に行って行うことが出来たが、それまでは学会参加を取りやめたり、国内学会であっても、オンライン発表になり、旅費の使用が極端に減った。 また、多施設共同研究を計画し、他の施設への働きかけを行い、共同研究に賛同頂いている病院もあるが、申請者の所属する病院が上記の状況であること、また、各病院基準で外部者の立ち入りを制限されているところもあり、共同研究が一部進まない部分があった。 特に2021年度~2022年度で新型コロナウイルスの影響を受けたが、2023年度は2つの国際学会で合計3演題学会発表、1本の英語論文発表を行うなど、予定通りの研究、支出であった。2024年度も学会発表、論文発表が控えており、症例登録に要する費用、郵送調査費用、旅費等で、すでに使用用途が決まっている。
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