研究課題/領域番号 |
21K07326
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
三村 俊英 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (30260491)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢発症炎症疾患 / 関節リウマチ / エピゲノム / リウマチ性多発筋痛症 |
研究実績の概要 |
高齢者における炎症の亢進はinflammageingとして、慢性炎症性疾患において重要な発症及び進展機序になっていると推定される。本研究においては、高齢発症慢性炎症性疾患の炎症惹起機序であるinflammageingに、エピゲノムの変化が関与していると仮定して、その解析を行うことを目的としている。2021年度には、高齢発症関節リウマチ(EORA)患者及び非高齢発症RA(YORA)患者の当院整形外科によって行われる人工関節置換術時に破棄される滑膜組織を同意取得後に採取し、滑膜線維芽細胞のヒストン修飾変化及びそれに伴う遺伝子発現変化を確認している。高齢発症関節リウマチ(EORA)及び非高齢発症関節リウマチ(YORA)患者の滑膜線維芽細胞を用いて、ヒストン修飾(主に、ヒストン3のリシン残機(K4、K27及びK36))のジメチル化とトリメチル化に関してクロマチン免疫沈降法(ChIP)を用いて解析を行っている。また、当科外来受診の未治療患者を対象にして、高齢慢性炎症疾患である高齢発症RA及びリウマチ性多発筋痛症(PMR)患者の末梢血単核細胞を用いて、ヒストン修飾の変化を当科で開発した核内ヒストン修飾解析法を用いて、K4、K27のトリメチル化の程度を細胞分画に分けて解析する。本研究では、滑膜線維芽細胞と末梢血単核細胞を用いて、高齢者に見られることの多い、高炎症状態の発症及び維持にエピゲノムが深く関与することを証明できると考えている。当該研究結果は、高齢者の生体内での炎症制御機構の異常がエピゲノム変化を介して高齢発症慢性炎症性疾患の発症・病態に関与する機序の一端を明らかにする。この機構の改善(薬物のみではなく、食品・栄養・運動・睡眠を肇多くの日常生活を含む)が高齢者における炎症状態の改善、ADL、QOLの改善に寄与すると期待でき人生100年時代に対応出来る戦略構築に繋がると予想できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)患者滑膜組織由来滑膜線維芽細胞;当院整形外科は関節置換手術症例数は多いが、RAは治療の向上により人工関節置換術を要する患者が減少しているため、現時点ではEORA 4例、YORA 5例を組み入れた。これらの患者からの培養滑膜線維芽細胞を用いたエピゲノム解析を進めている。その途中経過によれば、症例数が少ないために統計的な有意差は示していないが、H3K4me3はMMP-1、3、13においてEORAで亢進していることが明らかとなった。ところが、H3K27me3に関しては、これらの遺伝子を含むRA関連遺伝子において年齢による変化は認めなかった。 2)患者由来末梢血単核細胞;EORA及びリウマチ性多発筋痛症(PMR)の未治療患者末梢血を用いてヒストン修飾変化を解析する研究においては、対象者が多忙な外来での当院初診であり、かつ新型コロナウイルス感染の拡大防止対策中であることから、患者同意及び採血は2名のみであった。今後、リクルート推進を進める必要がある。 現時点では、先行している滑膜線維芽細胞において、発症年齢が高い方が遺伝子発現亢進に関与するとされるRA関連遺伝子においてヒストン修飾が多く見られる傾向にあった。これらの患者の血清反応(リウマトイド因子や抗CCP抗体)の状況に関しては、バイアスが入らないようにヒストン修飾解析が終了した時点で確認する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
RA患者由来滑膜線維芽細胞を用いた研究は、およそ予定通りに推進している。次年度も同様のペースで患者リクルートが進めば当初の予定患者数は達成できると推定している。一方、未治療患者由来の末梢血単核細胞を用いる研究では、早期に治療介入が行われることから、治療前の採血は初診時に同意を得ておく必要があり(これにより治療前である次回受診時の採血時に併せて研究用試料を得ることができる)、初診を含む来院患者数が多く、混雑が避けられない当科外来において同意取得のための説明を行うことは容易ではないと感じている。特に、今年度は新型コロナウイルス感染拡大中で、通常より外来の混雑を避ける必要性を感じている私たちとしては、同意取得にかけるための時間を捻出するモティベーションを維持することが困難であった。次年度では、同意取得用の別ブースを設け、同意取得補助者を用いてスムースな同意取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大のため、外来での初診患者リクルートが十分に行われなかった。ワクチン接種の拡大や治療薬の確立など好材料の出現を期待して、新規受診未治療患者の同意取得を進めることで、次年度使用額は十分に使用可能と判断している。
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