近年,広範な免疫抑制能をもつことで知られる骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) について,これまでよく研究されてきたがん領域だけでなく,肥満や生活習慣病などの多種多様な疾患と密接に関連することが示唆されてきた.特に,老化関連疾患に至る前段階である免疫老化とも関わる可能性が示唆されていることから,老化とMDSCの関連に注目が集まっている.本研究では,老化モデルを用いて,免疫老化・個体老化におけるMDSCの役割を明確にし,MDSCの機能調節という新たな老化予防のコンセプトを提唱することを目的とする.本年度は,前年度に明らかにした老化モデルであるSOD1欠損マウスにおけるMDSCの動態について更に詳細に検討を進めるとともに,老化表現型との関わりに関する解析を行った.本マウスにおいて,20週齢から脾臓におけるMDSC数が増加し,週齢依存的に増加を続けた.更に,このMDSC数の増加と一致して,SOD1欠損マウスの肝臓においてMDSCの遊走を促すケモカイン類が増加し,老化モデルマウスにおいて,加齢に伴い,MDSCの分化や遊走が促進していることが明らかとなった.また,このMDSC動態の変動し始める20週齢では,各臓器で老化表現型はまだ出現しておらず,36週齢以降で炎症性サイトカインの増加や肝線維化の病態が顕著となった.また,MDSCが増加した老化モデルマウスにLPSやチオアセドアミドを投与し炎症反応を誘導したが,野生型で認められるような反応は認められず,正常に免疫が応答していないと考えられた.従って,本研究で見出したMDSCの増加および分化異常は,老化関連疾患に先行して起きる現象であり,このMDSCの増加がその後の免疫細胞の機能異常を誘導し,正常な免疫応答ができない状態,すなわち「免疫老化」に寄与すると考えられ,MDSCを標的とした抗老化戦略の可能性を示すことができた.
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