研究課題/領域番号 |
21K07356
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小島 淳 熊本大学, 病院, 客員教授 (50363528)
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研究分担者 |
小島 知子 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (80281137)
松井 邦彦 熊本大学, 病院, 教授 (80314201)
道川 武紘 東邦大学, 医学部, 講師 (80594853)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 粒子状物質 / PM2.5 / 急性心筋梗塞 / 院外心停止 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、粒子状物質である黄砂やPM2.5の観測データをもとにその汚染状況を確認し、急性心筋梗塞や院外心原性心停止、脳卒中といった循環器系疾患発症のみならず呼吸器系疾患や悪性新生物による死亡との関係について疫学的評価を行い、粒子状物質が人体に及ぼす短期曝露に関する影響を明らかにすること、疾患別による粒子状物質の臨界値を定めることである。また粒子状物質の構成成分の解析結果から疾患発症のメカニズムについて検討することである。 以前、我々はPM2.5と心原性心停止との関係を報告したが、今回、PM2.5と呼吸器原性心停止との関連を検討した。2005年~2016年まで国内で認められた院外心停止1,423,338例中、594,791例が非心原性であった。PM2.5測定が行われた期間(2011年4月~2016年12月)において72,124例が目撃あり症例であり、このうち21,383例が呼吸器原性であった。平均年齢は80.6±13.8歳で、男性10,905例が含まれ、12,142例が寒いシーズン(11月~4月)におこったものであった。また初回の心電図において、non-shockable rhythm(無脈性電気活動と心静止)を20,450例に認め、その場に居合わせた人により13,271例に心肺蘇生が行われた。PM2.5の平均濃度は13.9ug/m3であった。PM2.5濃度が10ug/m3上昇すると呼吸器原性心停止は2.5%有意に発生し、心拍再開を認めない症例が3.1%、1ヶ月の死亡率が2.7%有意に上昇することが判明した。おそらくPM2.5曝露による呼吸機能の低下や心疾患の合併などにより病態が悪化し、院外心停止を引き起こし、死亡率上昇につながったのではないかと考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PM2.5のどのような成分が急性心筋梗塞や院外心停止に影響するのかを検討を開始している。現在PM2.5成分濃度については、主に環境省による全国10地点における成分自動測定データ(ACSA-14)を用いるが、推計した日平均の質量濃度(PM2.5とPM10-2.5)や成分濃度(黒色炭素、硝酸イオン、硫酸イオンなど)に、交絡となり得る気象要因(気温や湿度、気圧他)などを合わせて大気環境データとして抽出している。また循環器疾患データは循環器疾患診療実態調査から、院外心停止データについては総務省消防庁のウツタインデータから抽出するため、日本循環器学会などに使用申請を行い、申請が通過したところである。
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今後の研究の推進方策 |
令和3~4年度にかけて、研究分担者による粒子状物質の化学成分を分析する。具体的には粒子状物質の質量濃度以外に、水素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、水溶性有機化合物、アンモニウムイオン、光学的ブラックカーボン濃度を測定し、化学成分の寄与度合や含有水分量の推定を行い、大気環境データと疾病アウトカムデータを突合した解析データを使用して疾患に関係する成分を見出すことができれば、研究代表者と研究分担者と研究協力者が発症のメカニズムについて考察する。その上で、これまでに報告されているような地域間での関連性の違いが観察されるのであれば、その原因の解明を試みる。 研究代表者と研究分担者が、随時学会発表を行い論文化を進めていくが、令和5年度は本研究の総括として、粒子状物質に関する疫学から病態発症のメカニズムに至るまで、研究結果を体系的にまとめ仕上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会などの参加のための旅費として確保していたが、コロナ禍により中止になったりweb開催になるなどして、旅費を使用できなかった。今後学会などが現地参加になっていくと考えられるため、翌年分として請求する助成金にあわせる予定である。
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