研究課題/領域番号 |
21K07361
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡崎 仁 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80261973)
|
研究分担者 |
池田 敏之 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80322759)
三島 由祐子 杏林大学, 保健学部, 助教 (90815771)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 輸血関連急性肺傷害 / 輸血副反応 / CTL2/HNA3 |
研究実績の概要 |
CTL2/HNA3のQ154R多型(HNA3a/b)をもつレトロウィルス発現系を作成し、ATDC5, NIH3T3などのマウス由来細胞株に安定導入、安定発現細胞株を作成した。得られた安定発現細胞株にまず市販の抗CTL2抗体を作用させ、ミエロペルオキシダーゼ活性を計測した。抗体価依存性かつHNA3a導入クローン優位にミエロペルオキシダーゼ活性が、上昇することを期待したが、反応性が悪く有効な細胞モデルが構築できたとはいいがたい結果に終わった。現在マウス白血病由来細胞株M1を取り寄せて同様の検討を行うとともに、レトロウィルス発現系における蛋白発現量が不十分である可能性を考慮し、アデノウイルスベクターを含む一過性の強制発現系のモデルも利用して条件の再検討を行っている。 C末端Myc-tag付きのCTL2の一過性強制発現系を用いて、いくつかのTNSF(tumor necrosis factor superfamily)リガンドおよびそのレスプターを293細胞にCTL2と同時導入し、抗Myc抗体を用いて共免疫沈降を行った。しかしながら検討した範囲で特異的な結合を確認できるリガンド・レセプターは同定できなかった。そこでHalo-tag付きのCTL2強制発現ベクターをCTL2/HNA3a、CTL2/HNA3bの両多型においてそれぞれ作成し、まず293細胞に導入して抗Halo-tag抗体、およびCTL2特異抗体による発現を確認した。現在大量調整の系の検討を行うとともに、および好中球へ分化可能なHL60細胞株への一過性導入の条件の確認を行っている。 輸血副反応患者の副反応の種類を、呼吸不全を伴うものとそれ以外で分類し、輸血前および輸血後2週間以内の残余検体を回収。血漿を凍結保存した。呼吸不全の症例は限られること、残余検体のため検体量が少ないことから症例数の蓄積を待って解析に移行する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CTL2/HNA3aとCTL2/HNA3bの安定導入による輸血関連急性肺障害のインビトロ細胞モデル構築に手間取っており、マウス由来未分化細胞株を用いたより汎用性の高いモデルの構築はうまくいかなかった。しかしながらこれはある程度予測された事態でもあり、現在マウス白血病由来細胞株M1を用いた検討やアデノウィルスを含む一過性の強制発現系を用いた再検討を予定通り行っている。 CTL2/HNA3の相互作用分子について、当初想定していた相互作用候補TNFSFリガンド・レセプターとの特異的結合は確認できなかったが、新規結合蛋白スクリーニングのためのHalo-tag付の強制発現系の構築は予定通り行うことができた。 輸血副反応患者の残余検体回収作業は予定通り進捗している。 以上より研究の実施についておおむね予定通り順調に進展していると判断するものである。
|
今後の研究の推進方策 |
輸血関連急性肺障害(TRALI)のインビトロ細胞モデル構築の再検討のため、マウス白血病由来細胞株M1にレトロウィルス発現系での安定導入を行い、抗CTL2抗体への反応をミエロペルオキシダーゼで評価する。このさい抗体の種類や量を替えたり、抗HNA3a特異抗体を用いたりするなど、抗体の条件についても検討する。またレトロウィルス発現系における蛋白発現量が不十分である可能性を考慮し、アデノウイルスベクターを含む一過性の強制発現系のモデルも利用して条件の再検討を行う。アデノウィルスでの発現に問題があると判断された場合はレンチウィルス発現系の導入を検討する。細胞モデルの構築に成功した場合、顆粒球活性化マーカーであるCD11bの発現をフローサイトメトリーで評価する。 Halo-tag付のCTL2/HNA3の強制発現系を293およびHL60細胞に強制発現し、抗Halo抗体を用いた免疫沈降の系を検討する。条件が確立したらLC-MS/MSによる質量分析を行いpull-down前のlysateの分析結果と比較して沈降蛋白のリストを得る。リストアップされた蛋白に対するin silico解析を行い、CTL2と結合しリガンドとして作用する可能性のある分子や細胞内シグナル伝達系を担いうる下流分子などの相互作用候補遺伝子を絞り込む。 インビトロのTRALI細胞モデルが確立した場合、その細胞ライセートを用いてTRALI患者で上昇することが確認されているIL8その他の炎症性サイトカイン、NLRP3インフラマソーム、 NFκβシグナル伝達分子の発現やリン酸化その他の活性化を確認する。細胞モデルの解析が終了したら、患者サンプルで活性化蛋白の検証を行い、呼吸不全を伴う輸血副反応患者で特異的に活性化している蛋白がないか検証し、TRALIの特異的診断マーカーの候補を得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度であり、CTL2/HNA3の安定導入と抗CTL2抗体による輸血関連急性肺障害のインビトロ細胞モデルの構築のための基礎検討に時間が必要であった。またCTL2を用いたpull-down assay系の確立や輸血副反応患者の残余検体収集など、基礎的な事項をまずおさえる必要があり、予定していた高額な試薬・機器の利用や外注検査を必要とする下流の活性化分子の検索や質量分析などの検討は次年度以降に持ち越しとなった。
|