研究課題
胃癌(intestinal type)は日本人に多いがんであり、その原因はHelicobacter pylori(ピロリ菌)の高い感染率に由来している。ピロリ菌感染は、その他にも胃炎や胃粘膜委縮を起こし、消化性潰瘍、MALTリンパ腫の原因になる。胃癌以外の疾患は除菌により治癒するものがあるが、胃癌は除菌のみでは治癒できない。高齢者は感染率が高く、除菌している人も多いが、除菌後でも胃癌を発症する人はいる。この除菌後の胃癌発症は、長期のピロリ菌感染による胃粘膜萎縮が治らないためと考えられる。また萎縮胃粘膜においては、胃の酸度が低下し、胃内が中性化することによって、他の常在菌の繁殖が起こってくる。これら常在菌の中には発癌物質を産生する硝酸塩還元菌が存在し、胃癌発症の要因となる可能性がある。これら硝酸塩還元菌の胃内分布と炎症や発癌における役割を研究する。ピロリ菌による胃粘膜萎縮が発癌物質であるN-ニトロソ化合物を産生する硝酸塩還元菌の胃粘膜での増加と関係している可能性があり、ピロリ菌感染による発がん機構の新しい原因が証明できる可能性がある。ピロリ菌感染の影響による硝酸塩還元菌の胃への定着と増加が証明されれば新しい概念を提唱できる可能性がある。1)ピロリ菌培養の時に同時に培養される常在菌を分離培養し、硝酸塩還元能を調べる。2)硝酸塩還元菌のDNAを抽出し16SrDNAの配列から菌種を同定する。3)硝酸塩還元菌の炎症反応との関係を、単球系培養細胞を使い検討する。4)細胞性免疫を抑制した、マウスモデルに投与し、発癌するか調べる。
2: おおむね順調に進展している
1)2019年4月から2022年1月までの間に当院で上部消化管内視鏡検査を施行しHp培養を行った127例(胃癌患者19例、非胃癌患者108例)を対象とした。Hp以外の菌の分離状況を評価し、得られた菌を植え継ぎ、硝酸塩還元試験で硝酸塩還元能を評価した。Hp以外の細菌は107例(84.3%)で分離され、そのうち硝酸塩還元菌が分離されたのは41例(38.3%)であった。Hp以外の細菌が分離された群は有意に年齢が高く、open typeの萎縮が多く、胃酸分泌抑制薬使用者が多く、また胃癌患者が多かった。そのうち硝酸塩還元菌が分離された群は、Hp以外の細菌が分離された群の中でも有意に年齢が高く、open typeの萎縮が多く、胃酸分泌抑制薬使用者が多く、胃癌患者が多かった。このことから、年齢が高く萎縮が強く胃酸分泌抑制薬を使用している患者では有意に硝酸塩還元菌が分離されやすく、胃癌との関連も示唆された。2)萎縮性胃炎患者より分離された硝酸塩還元菌のうち多く分離されたActinomyces 属とRothia 属を単球系(THP)細胞に作用させサイトカイン産生を測定した.また、上皮細胞(AGS)細胞に作用させ細胞増殖に関係したMAPK活性を検討した.THP細胞からのTNF-alphaとIL8の産生は、Actinomyces 属(2株)とRothia 属(2株)ともピロリ菌刺激より有意に産生量が増加していた.一方、上皮細胞(AGS)に対するERKとp38のリン酸化はピロリ菌とActinomyces 属で認められ、Actinomyces 属による刺激が最も亢進していた.さらに菌の培養上清でもERKリン酸化が認められた.これら硝酸塩還元菌の胃内での増殖は、ピロリ菌より強い炎症反応や、細胞増殖に影響を与える可能性が判明した.ピロリ菌除菌後でも、これらの菌が胃癌発症に関係している可能性が示唆された.
細胞性免疫を抑制した、マウスモデルに投与し、発癌するか調べる。前回の科研で、マウス感染モデルにサイトカインIL10をピロリ菌感染マウスに投与し、Th1細胞性免疫を抑えるモデルを完成させた。感染後1年間観察したが、肉眼的には胃癌の発症は認められなかった。そこでさらに硝酸塩還元菌をこの感染モデルに硝酸塩還元菌を使投与し、IgGサブクラスをモニターしながら約1年間観察し、胃粘膜の病理、脾臓細胞の免疫反応を調べ、硝酸塩還元菌のピロリ菌感染における役割を検討する。現在、Actinomycesを投与したモデルを作成中である。
動物実験の審査が遅れ、完全実験の開始が遅れたため
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Helicobacter
巻: 27 ページ: e12874
10.1111/hel.12874