研究課題/領域番号 |
21K07368
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
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研究分担者 |
由利 和也 高知大学, 医学部, 名誉教授 (10220534)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 社会性 / 慢性痛 |
研究実績の概要 |
本研究では、社会的一夫一婦制げっ歯類であるプレーリーハタネズミを用いて、社会行動に関与する脳内神経回路に対する慢性痛の影響を多面的に解析している。前年度は、プレーリーハタネズミで作製法の異なる複数の神経障害性疼痛モデルを作製しアロディニアが1ヶ月以上持続することを確認できたが、コントロール群(shamオペ群)においても刺激に対する回避行動が検出されたことから、術後痛の慢性化が生じる可能性が示唆された。今年度は、外科的手術を要しない慢性痛モデルを作製する目的で、口唇および足底へのホルマリン注射により炎症痛モデルを作製し炎症痛が遷延化するか検証した。口唇炎症痛モデルでは注射後1時間内において口唇を擦る行動(rubbing)がコントロール群(PBS注射群)より多く出現する傾向がみられたが、統計学的有意差は検出されなかった。足底炎症痛モデルでは、足底へのvon Freyフィラメント刺激により少なくとも機械的アロディニアが2週間持続することを確認した(遷延性炎症痛モデル)。一方、コントロール群(PBS注射群)では急性痛も観察されず、その後von Freyフィラメント刺激においてもアロディニア様症状は検出されなかった。また、ホルマリン注射90分後に摘出した脊髄と脳において、脊髄後角浅層、腕傍核、扁桃体、側坐核、視床下部室傍核、前頭前野でcFosタンパクの発現が有意に増加した。扁桃体、側坐核、視床下部室傍核はプレーリーハタネズミの異性との絆形成においても重要な領域であることから、痛みが絆形成回路を変調する可能性が示唆された。また、無処置の雌のホームケージに見知らぬ雄を投入して6時間後のパートナープリファレンステストにおいて、雌がその雄に対して有意に多くの親和行動を示したことから、6時間の同居で雌雄間に絆が形成されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の大きな研究成果は、高社会性げっ歯類プレーリーハタネズミのホルマリン炎症性疼痛モデルにおいて、機械的アロディニアが遷延化することを行動学的に明らかにできたことである(遷延性炎症痛モデルの確立)。このことにより、これまで解析に用いてきた神経障害性疼痛モデルのコントロール群(shamオペ群)に生じ得る術後痛の慢性化を回避でき、より解析がしやすくなり次年度以降の研究効率があがると思われる。また、絆形成時と痛み刺激時の両方に活性化する脳領域を検出できたことで、次年度に解析すべきターゲット脳領域を絞ることができた。さらに、無処置雌がわずか6時間の同居のみで雄と絆を形成できる能力を備えていることを明らかにできたことは、遷延性炎症痛モデルの絆形成能を解析する際の重要な指標として使用できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から今年度にかけてプレーリーハタネズミによる神経障害性疼痛と遷延性炎症性疼痛慢性痛モデルを複数作製し、それぞれに適したvon Freyフィラメントによる機械的アロディニアの評価法を確立し痛みの慢性化を確認できた。特にホルマリン遷延性炎症痛モデルにおいて、絆形成に重要な脳領域の中で痛みの急性期にcFosタンパクを強く発現する領域を明らかにできたので、これらの領域の痛みの慢性期における活動をdeltaFosBの発現を指標に解析していく。これらの解析を通して、痛みの影響を強く受ける社会性脳内回路の領域および神経伝達物質・修飾物質を明らかにする。プレーリーハタネズミ雌が6時間の同居のみで雄と絆を形成できる能力を備えていることを明らかにしたので、これを指標として急性痛および慢性痛が絆形成能に及ぼす影響を行動学的にも評価する。さらには、鎮痛剤の全身投与や神経伝達物質受容体のアゴニスト・アンタゴニストの脳内投与により、痛みによる社会行動の変調をレスキューできるか確認していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いた実験動物はすべて自家繁殖で系統維持しており、飼育匹数の変動による飼育維持管理費および餌購入費が当初の予定と若干異なったために翌年度に繰り越した。繰り越し分については、次年度の実験動物の飼育維持管理費用に引き続き充てる。
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