うつ病と関連するバイオマーカーとしてのトリプトファン・キヌレニン代謝物は、血中では運搬タンパク質に結合して循環している。本研究は、その運搬因子の同定と、その量的な変動がうつ病態と関連しているのか、を明らかにすることを目的とした。初年度は、うつ病と一部重複する「ひきこもり者」の血しょうメタボローム解析を行い、特徴的な代謝物マーカーをいくつか発見し、報告した。また、トリプトファン・キヌレニン運搬因子について、血しょうタンパク質のゲルろ過法-SDS-PAGE法により同定し、うつ病との関連性を明らかにするために、そのタンパク質の血中濃度定量法の確立し、評価した。実際、血中トリプトファンの運搬タンパク質の一つであるα2マクログロブリン(A2M)の血中レベルは、健常者群に対してうつ病患者群において有意に低下していることがわかった。次年度は、キヌレニンの運搬因子であるハプトグロビン(HP)を同定し、それらの血中における量的変化がうつ病と関連しているかどうかを明らかにすることを試みた。未服薬のうつ病コホートサンプル(患者38名、健常者38名、血中トリプトファンは患者群で低下)を使ったELISA解析により、患者のハプトグロビンの血中レベルを検証した結果、健常群と有意差は見られなかった。この事実と一致して、患者群の血中においてキヌレニンは健常者と有意差はなかった。これらの結果から、少なくともA2Mはうつ病態と関連している可能性が示唆されたが、別の運搬因子の関与が考えられた。そこで最終年度は、プロテオミクス解析を導入して血しょうタンパク質300種を対象として、トリプトファン・キヌレニン代謝物運搬因子の再検索を行った。その結果、A2MやHP以外にも、数多くの結合因子の候補が同定された。現在、うつ病コホートサンプルを使ったプロテオミクス解析を行い、代謝物-タンパク質レベルの関連解析を進めている。
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