研究実績の概要 |
近年脳内で起こる炎症(脳内炎症)がうつなどの精神疾患の発症に深く関わることが明らかになってきた。その脳内炎症はストレスや加齢、感染症など、我々が日々経験する身近なイベントにより誘導され得るため、脳内炎症の制御はうつのみならず、脳内炎症が関わる疾患の発症予防においても極めて有効な手段と考えられる。本研究課題では、漢方薬である香蘇散が脳内炎症抑制効果を介してうつ予防に対して役立つエビデンスを示すことを目的に、これまで老化促進モデルマウスや擬似感染モデルマウスを用いて、老化や感染症に伴ううつに対する香蘇散の有効性を示し、老化促進モデルマウスによる検討では香蘇散の作用メカニズムの一つに抗炎症性に働くミクログリア(脳内の炎症応答に関わる免疫担当細胞)の増強の関与が示唆された。最終年度では、擬似感染モデルマウスにおいても香蘇散投与により抗炎症型ミクログリアの増強がもたらされるか解析を行った。 リポ多糖(LPS, 細菌の内毒素)を漸増的に腹腔内投与(0.21, 0.42, 0.84 mg/kg)したマウスの脳内海馬領域では、炎症型のミクログリアに発現するタンパク質が有意に増加したが、その増加は香蘇散の事前反復投与によって抑制されなかった。一方で、抗炎症型のミクログリアに発現するタンパク質は香蘇散投与によって有意に増加した。さらに、血液脳関門の透過性を制御するタイトジャンクションタンパク質発現も、香蘇散投与によって有意に増加した。以上の結果から、老化促進モデルマウスだけでなく、擬似感染モデルマウスにおいても香蘇散投与による抗炎症型ミクログリアの増強が認められ、この効果の一部には血液脳関門のバリア機能の強化も関与する可能性が示された。
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