研究課題
大動脈弁硬化をきたす患者の臨床因子の一つとして低身長が報告されているが、大動脈弁狭窄症における低身長患者群は脊椎後弯(円背)を伴う傾向であることが先行データで確認された。また、これら低身長群の患者では、大動脈の蛇行を合併する頻度が高いことも本研究で明らかになった。大動脈蛇行は経皮的大動脈弁留置術などの手技を行う際に、カテーテル操作に難渋するケースも多く、術前の正確な評価が望まれれている。しかしながら、実臨床の場では簡便でかつ客観的な大動脈蛇行を評価する方法はいままでなかったのが現状である。今回、我々は3DCT検査を用いた大動脈蛇行係数 [Aortic tortuosity index:ATI=大動脈長(mm)/身長(cm)]を開発し、大動脈弁狭窄症患者の患者背景や治療後の評価を行った。今研究では、120例の経皮的大動脈弁留置術(TAVR)を施行した大動脈弁狭窄症患者を対象に分析を行った。ATI 3.27を中央値として2群の比較を行うと、ATI高値群では脊椎の圧迫骨折や骨粗鬆症を合併しており、低身長の傾向にあった。さらには、ATI高値群では、周術期の人工ペースメーカー留置が必要となる完全房室ブロックの合併症が有意に多かった。従来より手術後の完全房室ブロックのリスクといわれている上行大動角との関連では、ATI高値群ではより大きな上行大動脈角を呈していた。これらの結果から、骨粗鬆症や加齢を基盤とした脊椎の変形は、大動脈の蛇行形成を促進し、大動脈弁狭窄症の進行や周術期の合併症に大きな影響を与えることが明らかになった。今後は、この脊椎変形を基盤とした新たな大動脈蛇行係数を用いて、高齢者がかかえる循環器疾患全般への影響も含めて検討を行っていきたい。
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