チミジンホスホリラーゼノックアウト(TP KO)マウス(129頭)および野生型(Wild)マウス(90頭)の生存期間を観察した結果、生存曲線は有意な差を持ってTP KOマウス群が延長していた。さらに、60~80週齢の老齢期のTP KOマウス群の夜間行動量およびオープンフィールドテストによる運動量の低下軽減が認められた。 老齢期のTP KOマウスは同週齢のWildマウスに比較し、肝臓における線維化の軽減および心機能の維持が認められた。また、肝臓においてはTPの有無により、老化マーカーであるp16(Cdkn2a/Ink4a)が有意に低下していた。このことから、PCRマイクロアレイを実施したところ、差異がみられた老化関連遺伝子群の中で、特にCalb1、Cdkn1c、およびCfhr1等の老化に伴う炎症反応(Inflammaging)に関連する遺伝子が低下していた。心臓や脾臓に同様な傾向が認められ、TPが体内のいくつかの臓器におけるInflammagingへの影響が示唆された。 また、細胞老化へのTPの影響を調べるため、老化誘導したマウス胎児線維芽細胞を確立した。確立した老化細胞と継代回数の少ない(若い)細胞を比較したところ、TPの発現量が増加していた。併せて、老化細胞の特徴的な表現型であるSenescence-associated secretory phenotype(SASP)に含まれる因子群の検出を試みたところ、FGF2、IL-8、およびβ1インテグリンの発現の差異が認められた。TP阻害剤(TPI;チピラシル塩酸塩)を用いた阻害実験によりSASP現象が軽減した。 本研究によって、チミジンホスホリラーゼが老化細胞および生体内の臓器老化において増加すること、TPの阻害はSASP現象を軽減することでInflammagingを抑制し、老化の遅延に有効であることが示唆された。
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