研究課題/領域番号 |
21K07398
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
遠藤 真理 北里大学, 東洋医学総合研究所, 上級研究員 (60296829)
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研究分担者 |
清原 寛章 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (70161601)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 補中益気湯 / 自己免疫性副作用 |
研究実績の概要 |
抗PD-1抗体と抗CD3抗体からなる抗体カクテルの単回投与による副作用発現マウスの開発を試みた。その結果、抗体カクテルは抗CD3ε抗体単独投与群との比較で絨毛の脱落は抗体カクテルでより強く観察された。さらに、小腸粘膜炎症の程度は、絨毛長/クリプト長比において抗体カクテル投与群が抗CD3ε抗体単独投与群に比較して有意に粘膜炎症が増悪していることが示された。気管支肺胞洗浄液中の炎症性サイトカイン(IFN-γ濃度)は、若年マウスでは抗体カクテル投与群で抗CD3ε抗体の濃度依存的に上昇したが、抗CD3ε抗体単独投与群との間に有意な差は認められなかったが、14週齢のマウスでは抗体カクテルによりIFN-γ濃度の上昇がより顕著に起こる可能性が示され、さらに抗体カクテルの複数回投与などモデルの改善の必要性が考えられた。 そこで、次に若年マウスまたは14週齢の抗体カクテル単回投与マウスに短期間で白朮配合補中益気湯を投与し、小腸粘膜炎症および気管支肺胞洗浄液中のIFN-γ濃度を検討した。その結果、若年、14週齢のマウス共に抗体カクテルの投与による小腸粘膜炎症は白朮配合剤の投与で有意に改善した。一方、気管支肺胞洗浄液中のIFN-γ濃度は抗体カクテルの投与で顕著に上昇し、若年マウスでは補中益気湯の投与によっても改善は認められなかったが、14週齢のマウスではIFN-γ濃度の抑制傾向が観察された。 パイエル板における自己反応性リンパ球の除去には一定期間が必要と考えられることから、14週齢の抗体カクテル単回投与マウスに長期間で白朮配合剤を投与し、小腸粘膜炎症および気管支肺胞洗浄液中のIFN-γ濃度を検討した。その結果、抗体カクテルの投与による小腸粘膜炎症は白朮配合剤の投与で有意に改善した。一方、抗体カクテルの投与による気管支肺胞洗浄液中のIFN-γ濃度の上昇は、補中益気湯の投与では変化を示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗PD-1抗体および抗CD3ε抗体からなる抗体カクテルを単回投与することにより、抗PD-1抗体単独では認められなかった小腸粘膜炎症・肺炎症が抗CD3ε抗体単独よりも悪化する各抗体濃度の組み合わせを確認し、抗PD-1抗体(擬自己免疫チェックポイント阻害剤)により惹起される炎症病態モデルを作成できる条件が明らかとなった。また、このモデルの炎症病態は、若年マウスよりも14週齢のマウスで悪化する可能性があることも検討し、今後の抗体カクテル複数回投与作成での参考となる条件検討を完了することが出来た。 加えて、本モデルの小腸粘膜炎症に対し白朮配合補中益気湯が有効で、この有効性は短期投与よりも長期投与で増強される可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
通常、ヒトの患者における免疫チェックポイント阻害剤の投与による副作用の出現は、2~3週間に1回の間隔の投与を4クール以上続けることにより出現してくることが知られている。そこで、本モデルにおいてもより臨床を反映させた病状が出現するモデルを開発することを目的に、炎症増悪の強度が強かった14週齢マウスを用いて、抗体カクテルを複数回投与により惹起される小腸炎症、肺炎症や血糖値の上昇も含めた顕著な自己免疫学的変化を抗体の濃度や投与回数別に検討を行う。 また、14週齢マウスを用いた抗体カクテル複数回投与による免疫チェックポイント阻害剤による副反応様の炎症モデルでの小腸粘膜炎症および肺炎症を中心とした炎症に対する白朮配合補中益気湯の長期投与による有効性を解析する。 さらに、白朮配合補中益気湯の含有成分の作用や白朮配合補中益気湯に他の生薬を追加した場合などより有効性が強まる可能性が考えられる処方の小についても解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
自己免疫性副作用を発現する抗体カクテル単回投与の濃度検討の予備検討で、あたりをつけた濃度でうまく炎症の増悪を確認できた為、予定よりも少ない濃度群で済んだことから、抗体や動物の使用数に使うはずの予算が節約できた。次年度はさらに臨床を反映した抗体カクテルの複数回投与の検討では投与回数や期間、濃度の予備検討を複数回繰り返さなければならないことが予想されたり、単価の高い週齢の大きいマウスを用いることが本モデルの作成に重要であることから、前年度からの次年度使用額と合わせた予算が必要となると考えられる。
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