研究実績の概要 |
精神病発症危険状態(At-risk mental state, ARMS)における生体分子濃度の変化などの生化学的、臨床化学的な情報は未だ少ない。今年度は、本研究課題の最終年度であることから、本研究期間において創製した誘導体化試薬CIM-C2-NH2を使用してヒト血清中有機酸の分離検出を検討し、その後、ARMS(n = 22) および健常人(n = 22) の血清中有機酸濃度を比較検討した(本学医学部倫理委員会承認番号A17039-26012、薬学部生命倫理委員会承認番号2016-006)。文書による同意を得た健常人の血清30 μLをサンプリングし、メタノールとアセトニトリルの混液で除タンパクした後、遠心分離した。この血清試料をCIM-C2-NH2で誘導体化し、ODSカラムを装着したLC-MS/MSで分析を行った。その結果、ヒト血清からD-3-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、馬尿酸、コハク酸、グルタル酸、L-乳酸が検出された。また、併せて、酵素法によりグルコースとピルビン酸の定量を行った。 次に健常対象群とARMS群で比較解析を行ったところ、D-3-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、馬尿酸、コハク酸、グルタル酸では有意差が認められなかったが、L-乳酸とグルコースにおいて、有意差が認められた。L-乳酸の結果は、以前に当教室でカラムスイッチングHPLC-蛍光検出法で行った結果と同様であった。このことから、本研究で開発した誘導体化試薬CIM-C2-NH2ならびにLC-MS/MS法による定量法の妥当性が支持された。また、解糖系に着目し、L-乳酸とグルコースの比率を算出したところ、ARMS群は健常人群よりも有意に減少しており(補正p値:0.001)、ARMS群ではグルコースからL-乳酸を生成する解糖系に異常がある可能性が示唆された。
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