研究課題/領域番号 |
21K07409
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
岡本 三紀 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 糖鎖オンコロジー部 主任研究員 (20332455)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍マーカー / 糖鎖 / HPLC / MS |
研究実績の概要 |
生体内の多くの血清タンパク質は糖鎖修飾を受け、その糖鎖構造の一部は腫瘍マーカーとして利用されている。また、血清中には遊離糖鎖も存在するが、すみやかに尿中へと排出される。本研究は、これらの糖鎖を標的にHPLC-basedグライコミクス解析を行い、従来法では検出されなかった腫瘍マーカーを新たに見出し、複数マーカーを用いた質量分析による新たながん診断システムの開発を目的としている。がん患者および健常人のHPLC糖鎖プロファイルを作成するために、血清糖たんぱく質から切り出した糖鎖を蛍光標識し、多段階HPLCで溶出分離する。N型糖鎖の解析にはその切断酵素PNGase Fがよく用いられる。一方、O型糖鎖は切り出す酵素がないため、化学的に切断する方法が利用されるが、同時に多量のN型糖鎖も切り出されてしまう。そのため、順相HPLCではN型糖鎖と伸長したO型糖鎖の溶出位置が重なり、圧倒的に量の多いN型糖鎖に埋もれて検出が難しい。そこで全てのO型糖鎖を検討対象とするため、血清N型糖鎖を先に酵素で切り出し分離してから、O型糖鎖を抽出精製する方法の検討を行った。確立した方法を用いて血清をrapid PNGase Fで反応させた後、糖タンパク質と遊離N型糖鎖を分離し、糖タンパク質からO型糖鎖を遊離させた。ほとんどのN型糖鎖とO型糖鎖の分離が可能であったが、糖鎖構造の詳細な解析によりO型糖鎖のソースであるムチンの回収率が安定していないことが示唆された。おそらくムチンの糖鎖修飾に依存した回収率となり、検体ごとにばらつきが予測されたため、O型糖鎖回収方法を再検討した。また、質量分析を用いた多項目同時測定は、尿検体から抽出したPA化糖鎖mixtureを用い、複数糖鎖構造の同時測定を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん患者血清中の新規腫瘍マーカー探索を目的としたHPLC-basedグライコミクス解析では、血清中の糖タンパク質から糖鎖を切り出し、蛍光標識した糖鎖のHPLCによる溶出パターンを健常人とがん患者で比較することで腫瘍マーカー候補の同定を進めている。N型糖鎖とO型糖鎖の全てをそれぞれ分離して回収するために、糖鎖の回収方法を検討した。O型糖鎖はピーリングを抑制するためマロン酸を添加し、ヒドラジンによる糖鎖の切り出しを行った。当初は、最適化した酵素反応液を用いてN型糖鎖を切断し、限界濾過後ヒドラジン分解を行いN型糖鎖とO型糖鎖の分離を行っていた。しかし、限界濾過の過程で特定のO型糖鎖の回収率が安定せず、おそらく糖鎖修飾に依存してムチンの回収率に影響してしまうことが示唆された。個体間に回収率の違いがあると測定実験には誤差が生じるため、一旦全てのO型糖鎖を抽出し、その後のHPLC分離によってN型糖鎖と分離する方法で進めることとした。本来着目していたN型糖鎖とオーバーラップしてしまう伸長型O型糖鎖が逆相HPLCで溶出位置が異なれば検出できる。順相HPLCは従来のO型糖鎖の溶出時間より長いN型糖鎖に特化した方法で行い、O型糖鎖とN型糖鎖の重なる溶出領域を細分化して分取を行った。以上の手順で、胃がん患者および健常者の血清から調製した蛍光ラベル糖鎖の分離を進めている。 一方、質量分析を用いた多項目同時測定方法の確立は、尿サンプルから抽出したPA化糖鎖mixtureを用いて、これまで同定した複数の腫瘍マーカー候補の同時測定を達成している。さらに内部標準の検討、分析測定方法の最適化、定量精度の確認を含め、共同研究として順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
既に、有用なマーカーの無いスキルス胃がんを中心に胃がん患者および健常者の血清から蛍光ラベル糖鎖の調製を行い、順相HPLCにより分取後、逆相HPLC分離を進めている。現在健常人との溶出パターンを比較した後、一部の血清O型糖鎖の構造解析を進めている。次年度は引き続き血清O型糖鎖のプロファイリング結果を検討後、マーカー候補となる糖鎖レベルを質量分析によるselected reaction monitoring (SRM)法で定量し、腫瘍マーカーとしての有用性を検討する。また腫瘍マーカー候補は、詳細な構造解析を行い、糖鎖構造を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部は研究実施計画のとおり糖鎖調製試薬及びHPLC/MS消耗品に使用したが、研究の実施に必須の機器類の修理の可能性が高く、当初予定していた消耗品費への使用を制限したため次年度使用額が生じた。次年度は、予定通りHPLC/MS関連の消耗品あるいは糖鎖調製試薬類への使用を予定している。
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