研究課題
パーキンソン病発症の環境毒であるロテノン曝露による腸管の免疫細胞を含む細胞環境の変化,炎症反応や酸化ストレスと腸管グリア機能不全との関係を検討し,腸管グリア機能不全ひいては腸管先行性神経変性をもたらす機構を明らかにするために,環境毒ロテノン持続皮下投与パーキンソン病モデルマウスの腸管組織における免疫細胞,炎症関連分子,消化管粘膜バリアの細胞組織学的変化を検討した.C57BLマウスへの浸透圧ミニポンプを用いた低用量ロテノン(2.5 mg/kg/day) 4週間慢性皮下投与により,回腸筋間神経叢,アストロサイト様グリア細胞の脱落が認められ,腸管粘膜上皮tight junction (ZO-1)の脆弱化,組織損傷時に核外に移行し細胞外へ放出され炎症惹起に働くdamage-associated molecular patterns (DAMPs)であるHigh mobility group box-1 (HMGB1)の粘膜上皮の核外の管腔側細胞質の核膜周囲に限局した特異な集積が認められた.正常ではHMGB1の核外・細胞外移行によりオートファジーが惹起され腸管粘膜バリアが維持されることから,HMGB1の核外・細胞外移行の障害により,腸管粘膜バリアの破綻が生じている可能性が考えられた.HMGB1の集積像からオートファゴソーム,ゴルジ-リソソーム系の関与が示唆された.粘膜上皮における異常なDAMPsの集積から,腸管組織での免疫反応の関与が疑われたことから,腸管組織(粘膜固有層,粘膜下層,筋間神経叢)における腸管免疫細胞(樹状細胞,細胞障害性M1/細胞保護性M2マクロファージ,腸管リンパ球Th, Treg cell)の発現変化について検討したが,特にロテノン皮下投与による著明な変化は認められなかった.
2: おおむね順調に進展している
環境毒ロテノン持続皮下投与パーキンソン病モデルマウスの腸管組織における腸管免疫細胞,炎症関連分子,消化管粘膜バリアの細胞組織学的変化を検討し,ロテノンの皮下投与であるにもかかわらず,腸管粘膜バリア機能の破綻と粘膜上皮での起炎キーファクターHMGB1の核外管腔側への異常集積とオートファゴソーム,ゴルジ-リソソーム系の関与を示唆する興味深い結果を得ることができた.しかし,腸管粘膜バリア機能の破綻がみられるにも関わらず,検討した範囲での腸管免疫細胞の動態には特に変化は認められなかった.次年度はHMGB1の異常集積が粘膜バリア破綻をもたらすメカニズムを検討し,さらに腸管免疫細胞の変化,HMGB1のレセプターTLR4以降の炎症関連分子の動態と抗酸化分子とα-synucleinの発現変化,腸管神経叢グリア細胞の機能不全と神経障害の関連について検討する.さらに,ロテノン暴露腸管初代培養系を用いて,腸管グリア機能不全および非細胞自律性の神経細胞障害をもたらす分子細胞イベントの同定を試みる.
ロテノン持続皮下投与パーキンソン病モデルマウスを用いて,さらに腸管免疫細胞の変化,HMGB1のレセプターTLR4以降の炎症関連分子,抗酸化分子とα-synucleinの発現変化,腸管神経叢のグリア細胞の動態,神経障害を経時的に検討する.また,腸管グリア機能不全および非細胞自律性の神経細胞障害をもたらす分子細胞イベントの同定を試みる.その分子細胞イベントを抗体,阻害薬,siRNAなどで補正,抑制することにより,腸管グリア機能不全と神経細胞障害が軽減あるいは阻止できることを確認する.できれば,神経細胞障害をもたらす分子細胞イベントを抑制する処置を低用量ロテノン慢性皮下投与パーキンソン病モデルに対して行い,腸管粘膜免疫系分子細胞イベントの補正,抑制による神経保護をめざす.
本年度に物品費として計上していた経費のうち,消耗品費の実験試薬が予定よりも少なく実験を遂行することができたため,2,195円は次年度に使用することとなった.次年度の請求研究費と合わせて,培養実験,動物実験のための消耗品費として使用する予定である.
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Acta Med. Okayama
巻: 76 ページ: 373-383
10.18926/AMO/63889
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