研究課題
本年度は最近疾患概念として確立された自己免疫性神経疾患であるmyelin-oligodendrocyte glycoprotein (MOG)抗体関連疾患患者免疫グロブリンG (IgG)から血液脳関門 (blood-brain barrier: BBB)破綻を引き起こす自己抗体を同定した.我々が樹立したヒトBBB構成内皮細胞株(TY10)を用いた.MOG抗体関連神経疾患急性期血清15例,安定期血清14例,対照として非炎症性神経疾患患者血清27例,健常成人10例の血清からIgGを精製した.次世代RNAシークエンス,NF-κB/ICAM-1免疫染色によるハイコンテントイメージングシステムとBBB透過性アッセイを用いて,MOG抗体関連疾患IgGのTY10に及ぼす影響を解析した.すると,急性期MOG抗体関連疾患IgGはNF-κB核内移行を誘導し,ICAM-1/VCAM-1発現を増加させ,酸化ストレスを増加させ,透過性を低下させたが,コントールIgGでは変化が無かったことが明らかとなった.次に,ウェスタンブロットで患者/コントロールIgG中のglucose-regulated protein (GRP)78抗体陽性率を検討したところ,GRP78抗体陽性率は,MOG抗体関連疾患患者15例中10例 (66%),非炎症性神経疾患患者では27例中3例 (11%),健常成人9例では全て陰性 (0%)であった.さらに,患者IgGから免疫吸着法を用いてGRP78抗体を除去し,患者IgGがTY10に及ぼす影響を解析したところ,その生物学的活性が低下した.これらの結果からMOG抗体患者からBBB破綻に関与する自己抗体としてGRP78抗体を同定し,この抗体がNF-κBシグナルを介してBBB透過性増加,接着因子発現増加,酸化ストレス増加を誘導することが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
すでに本研究を進めるための患者血清を収集し,血液脳関門に結合する自己抗体の同定するためのプロテオーム解析法を確立し,自己抗体が結合後の下流シグナルの変化を解析するためのRNAシークエンス解析法を確立した.現在,複数の標的分子の候補が同定できており,順調に研究は進んでいる.
本年度は,自己免疫性神経疾患から血液脳関門透過性を増加させる標的分子を同定する手法を確立した.さらに,この確立した方法を用いて視神経脊髄炎と多発性硬化症から新たにそれぞれ一つの血液脳関門透過性を増加させる新規標的分子の候補を同定した.今後,同定された標的分子が実際に血液脳関門透過性増加をもたらす作用があるかについて検討をおこなう.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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