研究実績の概要 |
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は常染色体優性遺伝の筋疾患で、健常者の骨格筋には発現していない転写因子DUX4-flの発現が原因と考えられている。我々はDUX4-flが遺伝子領域以外にも 「非コードDNA」である様々な反復配列(ERV, サテライトDNA, LINE, Alu, MaLR等)からの転写を誘導していることを明らかにしてきた。そこで本研究ではDUX4-flにより発現誘導される非コードDNAの完全長を明らかにし、FSHD病態との関連を探ることを目的とした。令和5年度は非コードDNAからの翻訳が示唆された複数のタンパク質について、ORFをクローニングし、タグ付きの発現ベクターへ挿入してヒト由来株化細胞であるHeLa細胞とHEK細胞で過剰発現させる実験をおこなった。タグに対する抗体を用いたウェスタンブロットの結果、3種類のタンパク質がこれらの細胞内で翻訳されタンパク質となっていた。一方、タンパク質のバンドが見られないものもあり、その非コードDNA配列にはリボソームが結合しないことや、翻訳されたとしてもタンパク質として不安定ですぐに分解されてしまう、などの可能性が考えられた。 研究期間全体を総括すると、目的としていたDUX4-fl誘導性の非コードDNAの完全長をIso-seq解析により決定することができた。また、Ribosome profilingによりこれらの中に翻訳の可能性があるものが含まれていることが判明した。そのいくつかについてORFをクローニングし、ヒト由来株化細胞での発現実験をおこない、過剰発現系ではあるものの実際にタンパク質として検出できるものが少なくとも3種類あることがわかった。これらのタンパク質の発現とFSHDの病態との関連については今後さらなる研究が必要である。
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