研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)関連脊髄症(HAM)は、HTLV-1感染細胞に起因する脊髄の慢性炎症性疾患で、HTLV-1感染者の約0.3%に発症する。HAM患者は、無発症のHTLV-1キャリアに比べ高いHTLV-1プロウイルス量を示すが、HTLV-1抗原であるTaxに特異的な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が多く、抗HTLV-1抗体価も高い。つまりHAM患者では、獲得免疫の機能は正常に作動し、CTLの働きにもかかわらずHTLV-1の感染拡大が制御しきれない状況にあるといえる。一方でHAM患者では、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞の頻度が減少しているという報告があることから、HAMを発症する患者は脆弱な自然免疫によりHTLV-1が感染拡大し、HAMの発症や病態形成に寄与する可能性が示唆される。そこで本研究では、HAM患者の自然免疫のポテンシャルについて解析し、どのような自然免疫の特徴がHAM発症と関連しているのかを明らかにすることを目指す。これまでに、HAM患者由来末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、nCounter Analysis Systemのヒト免疫応答をプロファイルするパネルにより、自然免疫にかかわる遺伝子発現の網羅的な解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
HAM患者由来末梢血単核細胞(PBMC)よりRNAを抽出し、自然免疫の状態の違いを明らかにする目的で、nCounter Analysis Systemにより、免疫応答のステップを段階的に評価できるパネルを用いて約700遺伝子の発現パターンの網羅的解析を進めた。その結果HAMにおいて、慢性炎症を引き起こすケモカインの発現が上昇しているのみならず、自然免疫にかかわる分子の発現が低下していることが明らかになった。使用する検体も問題なく得られており、順調に進展している。
本研究では、HAM患者由来末検体を用いて、nCounter Analysis Systemのヒト免疫応答をプロファイルするパネルにより、自然免疫にかかわる遺伝子発現を網羅的に解析し、HTLV-1キャリアとの遺伝子発現を比較することで、自然免疫制御とHAM発症の関連が明らかになると考えられる。網羅的解析では自然免疫にかかわる分子の発現低下が確認されているため、前年度に引き続き網羅的解析を進め、解析結果により得られた分子に関して、HAM発症とどのように関連するかについて詳細な検討を進める。これまでの研究では、増加したHTLV-1感染細胞がどのように病態を形成するのかは明らかになったが、同じHTLV-1に感染しても無発症のHTLV-1キャリアとHAM発症者の違いがどのように運命づけられているのかは明らかではなかった。本研究では、今一度感染初期に立ち返り、HAMの病態を引き起こすHTLV-1感染細胞がなぜ増え、HAMを発症するのかを明らかにすることで、HAM発症リスクを予測することが可能な末梢血中サロゲートマーカーの同定も可能になると期待され、HTLV-1関連疾患の研究領域に対しても貢献できるものと考えられる。
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