研究課題/領域番号 |
21K07428
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 信二 藤田医科大学, 医学部, 教授 (40572079)
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研究分担者 |
渡辺 宏久 藤田医科大学, 医学部, 教授 (10378177)
加藤 昇平 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70311032)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / 音声解析 / 人工知能 / 機械学習 / 診断支援システム / 発話特徴 / 早期診断 / 遠隔医療 |
研究実績の概要 |
Parkinson病(PD)は65歳以上の有病率が約100人に1人と頻度が高く、かつ脳神経内科専門医による治療効果が確実に期待できる神経難病である。PD患者は病初期にプライマリ・ケア医(PC医)や整形外科など専門外の医療機関を受診し、診断が遅れたり、多発性脳梗塞、脊椎症、関節症などの他疾患と誤診されることが少なくない。またPDの診断が正しくなされているにもかかわらず、専門外の主治医の元で、病期や症状に応じた薬物調節が適切に行われていない患者も見受けられる。 そこで我々は、地域のPC医を含む専門外の医師が、PDを容易に疑い、専門医に紹介し、早期診断・治療に結びつける手段として、PD患者に特有の発話特徴を、人工知能を用いた音声認識ソフトで解析し、他の疾患と鑑別するシステムの構築を試みている。また、PD患者の病状の進行や治療効果と音声解析システムを結びつければ、専門医への日常的アクセスが困難な地域において、専門外の主治医の元で簡便に音声を収録・解析した結果に基づき、専門医が患者および主治医に、具体的に治療法を提案できる遠隔医療のシステムを構築できる可能性がある。既に研究分担者の渡辺と加藤が、認知症患者の発声・発話の韻律的特徴を解析し、Alzheimer病および前頭側頭型認知症を、各々健常者と鑑別するシステムを開発し、有意な結果が得られつつある。今年度は藤田医科大学病院(以下「本院」と略)において2年間に抽出した、PD患者116名における発話(小声や粗造性の嗄声など)の音響特徴、単位時間当たりの発話量・発話時間長などの時間的特徴、同一の質問に対する言語特徴を、PD関連疾患(大脳皮質基底核変性症13名、多系統萎縮症17名)および健常者94名のレジストリと比較し解析を進め、3単語の発音のみでF値0.906という高い能力で鑑別できるシステム構築に成功し、セカンドコホートで確認予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PD患者および健常者のレジストリの集積が順調に進み、PD患者の発話特徴を抽出しつつ、PD患者、PD関連疾患患者と健常者との違いを検出するシステムがほぼ構築された。現在、個々のPD患者において、運動症状・非運動症状、認知機能、生化学的データなどの広範なデータと音声データを対比するとともに、セカンドコホートによる検証へ向けた体制も進んでいる。さらに地域医療機関において発症初期にPDとの鑑別が必要となる非神経変性疾患(多発性脳梗塞、脊椎症、関節症)の症例も集積中である。 岡崎医療センター(以下「岡崎MC」と略)のPD患者数も順調に増加しており、本院で構築した音声データシステムを用いた検証を岡崎MCで進める予定である。また、岡崎MCにおいては、医療連携室を介した地域医療連携を充実させており、重要な基盤構築も着実に進んでいる。さらに、地域医療機関との間で患者のデータを、個人情報を秘匿し安全・確実に送受信すべく、本院で新たな回線システムを開発・構築中であり、本研究にも用いる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はレジストリに集積したデータを用いて、PD患者の発話特徴を、他の鑑別を要する疾患(PD関連疾患および非神経変性疾患)の発話特徴と対比する。またPD患者においては発話特徴と、歩行や日常動作などを反映する各種臨床指標や、認知機能、生化学的バイオマーカー等との相関関係を明らかにする。特にPDの早期診断・治療に資するため、発症5年以内の早期PDに特異的な発話特徴の抽出を進める。 また、このシステムが遠隔医療に役立つかを検証する目的で、岡崎市、額田郡幸田町、西尾市、蒲郡市の各医師会と連携し、岡崎MCの医療連携室が窓口となり、地域のクリニックからの研究参加を募る。さらにこれらの研究参加施設および藤田医科大学ばんたね病院において、その有用性の検証を行う。このような連携研究に際しては本院で構築中の回線システムを用い、個人情報保護における安全性を担保する。 これら一連の研究により、音声からPDの可能性を類推するシステムの基盤を確立し、社会実装を目指して展開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで本院において既存の機器で既に集積したデータを元に、PD患者と健常者の発話特徴の違いを解析し、以後の実臨床場面での効率的なデータ収集・解析の方法を検討してきた。 また岡崎MCおよび地域の研究参加施設で収集するデータを個人情報を保護し安全に送受信するシステムも構築中である。 これらを確立した後に、次年度に岡崎MCおよび研究参加施設でのデータ収集を行う予定となり、これらの施設における音声データ収集に必要なマイク、録音機、PCシステムの購入を次年度に見送ったため、これまでの支出が低く抑えられた。
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