研究課題/領域番号 |
21K07446
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
武藤 多津郎 藤田医科大学, 大学病院, 教授 (60190857)
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研究分担者 |
中嶋 和紀 岐阜大学, 糖鎖生命コア研究所, 准教授 (10442998) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経炎症 / 糖脂質 / 情報伝達 / 神経細胞死 / 蛋白修飾 / 蛋白異常凝集 / セラミド合成酵素 / 脂肪酸鎖 |
研究実績の概要 |
2年目である今年度は一定の研究進展が図られた.先ず、我々が新規に発見した抗ラクトシルセラミド抗体等の抗中性糖脂質抗体が特異的に検出される神経免疫疾患である脳脊髄根末梢神経炎 (encephalomyeloradiculoneuropathy: EMRN)について、同患者脳脊髄液中の糖脂質を高感度質量分析計を用いて測定した.その結果、同患者髄液ではある特定のアシル基鎖長の脂肪酸鎖を持つセラミド (ceramide) が常対照に比し有意に増加していることを見出した.さらに、innate immunityの活性化状態を反映する活性化C5 complement, C5a値が患者群で有意に増加しており、中枢でのinnate immunityの活性化が起きている事が判明した.これらの成果は、Biochim Biophys Acta Mol Cell Biol Lipids 2022に発表した.この研究成果は、広範な神経炎症反応が惹起されると考えられているEMRNで、ceramideがその神経炎症反応のシグナル伝達分子として作用している可能性を示唆しており、sphingolipidsの持つ新たな重要な生物学的機能を表現していると考えられた.さらに、神経変性疾患であるパーキンソン病(PD)患者で、その脳脊髄液の糖脂質・脂質分析を上記と同様に質量分析による解析を行った結果、ある特定の脂肪酸鎖長を有するグルコシルセラミドと中枢でのC5a濃度との間に疾患特異的に有意な相関関係が見られる事が判明した.セラミドのみならずグルコシルセラミドなどの中性糖脂質も又神経炎症反応のシグナル伝達分子となっている事が想定された.こうした成果より、ある特定鎖長を合成するセラミド合成酵素サブタイプ(1-6)の各々の疾患での発現状態を詳細に調べる必要が判明し、現在その準備を行っている所である
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度途中で、質量分析を担当する共同研究者が他研究機関に移動し本研究遂行が不可能となった為髄液中の脂質分析を研究代表者が担当せざるを得なくなった。そのため研究時間を取られ予定よりやや遅れた状態である.その後、当該大学の中央機器センターでの測定が依頼できる事となり、ようやく事態は動くようになった.当初予定していた患者脳組織でのアミロイド蛋白やシヌクレイン、タウ蛋白などの病的凝集体の糖脂質・脂質分析などはまだ行えていない.これら、原因蛋白凝集体から効率よく脂質抽出を行い、高感度MSでこれら凝集体に含まれる糖脂質・脂質を同定する.又、脳組織切片を用いてこれら糖脂質に対する特異的抗体を用いて免疫組織化学染色を行い所見を確かめたい.
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今後の研究の推進方策 |
1)PD、筋委縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患及び多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)、慢性根多発神経炎(CIDP)患者からの 脳脊髄液・血清の糖脂質・脂質分析をHILIC-ESI-MS/MSを用いて行う.2)上記神経変性患者剖検脳組織を用いた糖脂質・脂質分析を行う.また、各疾患で異常凝集している蛋白の特異抗体を用いて免疫沈降を行い、そのサンプルから脂質・糖脂質分析を高感度MSで行う.3)神経変性疾患患者髄液・血清中の抗中性糖脂質抗体の存否をFar-Eastern blot法で明らかにする.4)先述の神経免疫疾患患者髄液・血清を用いて、補体活性化状態を明らかにすると共にその値と脂質・糖脂質濃度との相関を網羅的に解析を行う. 5)神経変性疾患患者の脳切片を用いて、各中性糖脂質抗体で染色し脳各部位での各中性糖脂質の多寡をパターン化する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究2年目の令和4年度は、本研究初年度に生じた研究組織の変更(共同研究者の研究機関移動に伴う削除のため)により実験実施に大きな変更が生じた.質量分析に伴う実験費の使用が出来なかった為次年度使用額が生じた.研究最終年である、令和5年度にはすべての質量分析と当初予定の免疫組織化学的、病理学的検討に予算額を全て投入し効率的な実験実施を計画している.
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