研究課題/領域番号 |
21K07448
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
中原 正子 広島国際大学, 保健医療学部, 講師 (30443120)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アルツハイマー型認知症 / 血管内皮細胞 / 酸化ストレス / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
昨年度、血管内皮細胞はストレス刺激でmicroRNA-10b-5p (miR10b)をエクソソームに内包された状態で分泌することを突き止めた。またmiR10bの標的遺伝子として脳由来神経栄養因子(BDNF)を見つけた。 BDNFは管腔形成促進、細胞増殖促進などをもつ。MTTアッセイではmiR10bを過剰発現させるとHUVECの増殖速度は低下した。miR10bは、標的遺伝子であるBDNFの発現を抑制することで、血管内皮細胞増殖を抑えることが分かった。 またBDNFはp44/42 MAP kinaseを介して 細胞接着因子であるVE-cadherinの発現を促進することが報告されている。我々の研究でもmiR10bを高発現させると、VE-cadherinのタンパク質発現が低下した。これはmiR10bの高発現がBDNFの発現を低下することによってVE-cadherinの発現が低下したと考えられ、血管内皮細胞の細胞間接着を減弱させる分子メカニズムが明らかになった。 Rawan Tarawnehらは脳脊髄液中のVE-cadherinがアルツハイマー型認知症(AD)のマーカーとなることを報告している(2022)。つまりADのヒト脳では血管内皮細胞損傷によってVE-cadherinが細胞外へ豊富な内皮蛋白として放出され、脳脊髄液中のVE-cadherinレベルが増加するという興味深い内容である。また本論文は血管内皮障害がAD病態の初期イベントであり、アミロイドまたはタウの病理よりも先行する可能性があることを示唆しており、そのため初期AD病因における脳内皮機能障害の信頼できる内皮バイオマーカーが必要であることを述べている。脳脊髄液をスクリーニングに用いることは難しいが、血液の採取は簡便であることから、我々は血液中のmiR10b測定が血管内皮細胞のバイオマーカーとして最適であるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血管内皮細胞の障害についてマイクロRNA発現量の変化から下流因子の同定、さらに下流因子の発現変化から細胞増殖能や管腔形成能などの表現型への影響まで確認することができた。目的のマイクロRNAが血液中のエキソソームに含まれて分泌されていることや、簡便に抽出できることもマウスで確認済みである。現在COVID-19の影響で多くの病院がqPCR測定用機器を保有している状況であり、またマイクロRNAも同じ機械で測定可能である。よって目的のマイクロRNAは血管内皮細胞の状態、延いては脳の血管内皮細胞(血液脳関門を含む)の状態を知るバイオマーカーとして、臨床の状況を鑑みても期待が大きい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、米など植物の細胞壁に含まれるポリフェノール成分のフェルラ酸が、ストレスによる血管内皮細胞のmiR10b発現上昇を抑制し、アポトーシスを低下させることを解明した。今年度miR10bの下流にBDNFやVE-cadherinが関連していることを発見したが、フェルラ酸の効果は検討していない。予防医学、健康医学の観点からアルツハイマー型認知症を発症する前に血管内皮細胞の機能低下を予防・改善することは非常に重要な課題である。来年度はフェルラ酸のもつ抗酸化作用を最大限に活かせるよう検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で学会や打ち合わせがWeb開催になったため旅費支出が無くなった。配送遅延など年度内納品完了がかなわず発注できていない商品があるため未使用額が発生した。
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