研究課題/領域番号 |
21K07450
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中道 一生 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (50348190)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 神経感染症 / 脳 / ウイルス / 脱髄疾患 / 検査技術 |
研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)は免疫不全や免疫抑制治療等を背景に生じる致死的な脱髄疾患であり、JCウイルス(JCV)によって引き起こされる。多くの成人では、一様なウイルスゲノムの配列を有するJCV(アーキタイプ)が腎臓に持続感染、およびリンパ節や骨髄に潜伏感染している。免疫能が低下した患者では、末梢部位のアーキタイプJCVの増殖が再活性化し、ゲノムの一部が変異したJCV(プロトタイプ)が脳内のオリゴデンドロサイトで増殖することで脱髄に繋がる。PMLの根本的治療法は確立されておらず、治療がなされても深刻な後遺症を呈することが多い。本研究は、「PMLの背景疾患を有する患者の末梢検体中のJCVの出現量および変異パターンに基づいて再活性化機序を包括的に解析し、PMLのリスク評価に資する基盤的データならびにハイスループット検査系を構築する」ことを目的とする。令和3年度における本研究においては、PMLの背景疾患を有する非PML患者から採取された尿および血液を対象として、JCVのスクリーニング検査系を至適化した。患者の尿および血液からDNAを抽出し、微量検出(下限値20コピー/mL)が可能な超高感度PCR検査系を用いてJCVの有無とコピー数を測定した。また、検出されたJCVゲノムの一部をプラスミドにクローニングし、プロトタイプにおいて頻繁に変異が生じる調節領域の塩基配列を解析した。JCVは患者の尿から検出され、その出現頻度やコピー数は血清中の抗JCV抗体価と相関を示した。また、尿から検出されたJCVの多くはアーキタイプであったが、一部において未報告の変異を有した。加えて、血液からはJCVが検出されなかったが、より多くの患者の検体を解析することで血液中へのJCVの放出を監視しうることが推察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては、PMLの発症リスクを有する患者の尿や血液を対象として、それらの末梢検体中のJCVの出現頻度やコピー数、変異様式等を解析するためのスクリーニング技術を至適化し、その有用性を確認することができた。本研究において用いられている超高感度PCR検査技術等は、PMLの診療のために脳脊髄液中の極微量のJCVを検出することを目的として確立されたものである。しかしながら、当検査系は末梢検体中のJCVの出現や動態を把握する上でも有用であることが示された。また、一部の基礎疾患においては抗JCV抗体価が高値の場合にはPMLの発症リスクが高いことが知られており、尿中のJCV量がリスク評価の指標となりうることが推察された。これらの技術に基づいてより多くの患者の検体を対象としたスクリーニングを展開することで、PMLのリスクとなりうる基盤的なデータを集積することが可能である。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度において至適化されたスクリーニング技術を用いて、より多くの非PML患者の尿や血液中のJCVの有無やコピー数等を解析する。その際には、次年度からのデータベースの構築を目的として検体だけでなく匿名化した患者情報を収集する。また、非PML患者ではなくPMLを発症した患者から採取された尿や血液を対象として同様の解析を行い、末梢検体におけるJCVの出現頻度や性状を解析する。加えて、限外濾過用のマルチフィルターを搭載したプレートを用いて尿や血漿からPCR阻害物質を速やかに除去することで核酸抽出作業を省略し、JCVの定量検査だけでなく調節領域の変異を迅速に解析するためのハイスループット検出系を開発する。末梢検体を対象として得られたウイルス学的なデータならびに患者の臨床的なデータを統合したプラットフォームを構築し、それらの情報の関連性を統計学的に解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが、令和4年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和3年度分についてはほぼ使用済みである。
|