研究課題/領域番号 |
21K07457
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
木村 暁夫 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (00362161)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 自己免疫性脳炎 / GFAP / 髄膜脳炎 / 髄膜脳脊髄炎 / 自己抗体 / 免疫療法 |
研究実績の概要 |
我々は,これまでに自己免疫性GFAPアストロサイトパチー患者130名を同定した.年齢の中央値は52歳で,男性65%であった.この中の臨床情報が得られた89名の臨床的特徴を明らかにした.臨床病型は髄膜脳炎62%,髄膜脳脊髄炎36%,脊髄炎2%であった.13%の患者で腫瘍を合併し,主な腫瘍は卵巣奇形種であった.発症から入院までの日数の中央値は12日で,主な前駆症状として発熱49%, 頭痛34%に認めた.神経学的所見として,排尿障害78%,意識障害61%,髄膜刺激徴候と運動失調をそれぞれ51%,認知機能障害48%,腱反射亢進と振戦をそれぞれ46%,精神症状43%,ミオクローヌス38%に認めた.髄液検査では,98%で単核球主体の細胞増多を,99%で蛋白量の上昇を認めた.オリゴクローナルバンドの陽性率は71%であった.頭部単純MRIでは,88%でT2/FLAIR高信号病変を大脳白質・基底核・視床・脳幹などに認めた.頭部造影MRIでは,放射状血管周囲線状造影病変を54%に認めた.脊髄単純MRIでは42%に髄内高信号変化をみとめ,この中の87%は3椎体以上の連続する長大な脊髄病変であった.ステロイドパルス療法93%,プレドニゾロン内服81%,IVIg28%,デキサメタゾン7%,血液浄化療法6%に施行された.また13%の患者では人工呼吸器管理を必要とした.予後に関しては,modified Rankin Scale(mRS)の中央値が入院時5であったのが最終観察時2であった.最終観察時のmRSが3以上の患者が36%で,7%の患者が再発した.後遺症として,認知機能障害18名,排尿障害17名,歩行障害16名に認めた.9名の患者で病理組織所見を検討し,血管中心性に脳実質のCD4+およびCD8+T細胞の浸潤,血管周囲のB細胞・形質細胞の浸潤,ミクログリアの活性化,反応性アストロサイトの出現を認めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに国内で唯一のCell-based assayとTissue-based assayを用いた髄液GFAP抗体の測定系を確立し,全国の医療機関からの抗体測定の依頼を受けて,抗体を測定した結果130名の患者を診断することができた.また,本邦の自己免疫性GFAPアストロサイトパチー患者の臨床像を明らかにし,その成果として国内外の学術誌や学会にて発表した.その結果,臨床現場において本疾患が,広く知られるとともに,新たな抗体測定の依頼件数が増え,診断後の治療介入により患者の予後の改善につなげることができた.また最近,フランスのコホート研究において自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの臨床的特徴が報告されたが(Dumonceau AG, et al. Glial fibrillary acidic protein autoimmunity: a French cohort study. Neurology. 2022; 98: e653-e668),その中で我々の報告(Kimura A, et al. Clinical characteristics of autoimmune GFAP astrocytopathy. J. Neuroimmunol. 2019; 332: 91-98)も彼らの研究結果と類似するものとして引用されており,世界的にも本疾患の疾患概念が認知される結果につながっている.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度も,髄液GFAP抗体の測定を継続して行い,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーの診断およびその後の治療に繋げるとともに,本邦における本疾患の実態を明らかにする.特に予後関連因子の解明、治療内容と予後および後遺症との関連性を検討することにより,本疾患の最適な治療法を確立する.また本疾患患者の多くは,抗体測定前に原因不明の髄膜脳炎もしくは髄膜脳脊髄炎、自己免疫性脳炎と診断されている患者が多いが,最近我々は,孤発性中枢神経リンパ腫様肉芽腫症に類似する臨床・病理所見を呈した自己免疫性GFAPアストロサイトパチー患者を報告しており(Kimura A, et al. Autoimmune glial fibrillary acidic protein astrocytopathy resembling isolated central nervous system lymphomatoid granulomatosis. J Neuroimmunol. 2021;361:577748),今後本疾患の臨床的な広がりを明らかにする.病態機序の解明を目的とした研究に関しては,本疾患ではGFAP抗原に対する免疫応答が,ウイルス感染症や腫瘍を合併することにより引き起こされることが推測されているが(Flanagan EP, et al. Glial fibrillary acidic protein immunoglobulin G as biomarker of autoimmune astrocytopathy: analysis of 102 patients. Ann. Neurol. 2017; 81: 298-309),今後先行感染因子の同定や腫瘍組織におけるGFAP抗原の発現の有無などを検討する予定である.
|