プリオン病は、健常神経組織に発現する正常型プリオン蛋白質が、プロテアーゼK抵抗性の異常型プリオン蛋白質に構造変換し、中枢神経に蓄積する神経変性疾患であるが、その分子機構は不明であり、治療法も存在しない。研究代表者は、マウスの神経細胞に神経病原性のインフルエンザウイルス(以下、IAV)を感染したところ、正常型プリオン蛋白質が異常型プリオン蛋白質に変換することを発見している。さらに、異常型プリオン蛋白質が、なぜIAV感染により産生されるのか調べたところ、IAVが感染した神経細胞は、プログラム細胞死の1つであるネクロトーシスを惹起していた。そこで本研究では、ネクロトーシスが異常型プリオン蛋白質産生のトリガーとなりえるのかを明らかにすることで、異常型プリオン蛋白質産生メカニズムを解明する。 (1)ネクロトーシスの構成因子であるRIP1、RIP3およびMLKLをノックアウト(以下、KO)細胞を作製し、異常型プリオン蛋白質を感染した。 その結果、現時点では、IP1、RIP3 KO細胞では、異常型プリオン蛋白質の新規産生は確認できていない。また、MLKL KO細胞では、MLKLが発現している細胞と比べて、異常型プリオン蛋白質の産生が抑制することが明らかになった。 (2) IAV感染と同様に、薬剤を用いてネクロトーシスを惹起することで異常型プリオン蛋白質を産生できるかどうか検討した。残念なことに、ネクロトーシスを惹起しただけでは、異常型プリオン蛋白質は産生しないことが明らかになった。そこで、IAV感染により、細胞に供給される分子として同定したRNAの共存下でネクロトーシスの惹起を試みたが、この条件でも、異常型プリオン蛋白質の産生は確認できなかった。
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