【背景】急性期脳梗塞では,残存血流量が極度に低下し,組織の不可逆的変化が生じる領域(虚血コア)と,残存血流はある程度保たれ,脳機能は停止しているものの組織の可逆性が一定時間維持されている領域(ペナンブラ)とが混在する.急性期脳梗塞診療において不可逆的変化と考えられていた虚血コアが回復する「幻の虚血コア現象」に遭遇することがある。虚血コア体積を真の梗塞体積よりも過大評価することは,再灌流療法の適応を判断する上で重要な問題である.我々は幻の虚血コア現象の頻度や関連因子を調査した。 【方法】2017年3月から2022年7月までに当院で機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy: MT)を施行した脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者連続例を登録した.虚血コアはMT前CT灌流画像で測定し,最終梗塞体積はMT後24時間から72時間のMRI拡散強調画像で測定した.幻の虚血コアは,MT前虚血コア体積から最終梗塞体積を引いた値が10mLを超えた場合と定義した.コア拡大速度は,治療前虚血コア体積を脳梗塞発症からCT灌流画像撮影までの時間で除して求めた. 【結果】対象症例91例のうち21例(23.1%)に幻の虚血コア現象がみられた.幻の虚血コア群はそれ以外の群と比較し,コア拡大速度(14.2 vs 4.8 mL/h,p=0.021)が大きく,完全再開通率(71.4% vs 41.4%,p=0.01)が高かった.幻の虚血コア現象を予測するコア拡大速度の最適カットオフは22mL/hであった. 【考察】幻の虚血コア現象は、機械的血栓回収療法を実施した急性期脳梗塞症例のおよそ1/4の症例に伴うことから稀ではなく、またコア拡大速度が大きいことと関連することが明らかとなった.今後、臨床現場でより簡便に利用できるシステムに発展させる予定である.
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