研究課題/領域番号 |
21K07473
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大村 優 北海道大学, 医学研究院, 講師 (80597659)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セロトニン / うつ病 / 気分障害 / 背側縫線核 / 5-HT |
研究実績の概要 |
令和4年度には、HPLC-ECD(電気化学検出高速液体クロマトグラフィー)によるセロトニン量減少の確認を実施することが計画されていた。所有装置が経年劣化していたため、いくつかの部品を交換し、基礎検討をやり直した。また、マウスの脳からわずか1mm程度の背側縫線核を回収しなくてはならないが、毎回安定して同じ部位を切り出すことが難しく、5-HTの値がコントロール群ですら安定しない。そこで、脳スライスをビブラトームを用いて切り出して顕微鏡下で背側縫線核を切り出す方法を採用し、比較的安定したデータを取ることに成功した。そして、セロトニン合成酵素TPH2の遺伝子を切断するように設計されたウイルスベクターの脳内投与によって、背側縫線核のセロトニン含有量が低下していることを確認できた。同時に、グルタミン酸の含有量は低下していないことも確認でき、この方法によりセロトニン合成のみが阻害されていることを示した。もう一つの計画は、仮説「脳内セロトニンが減るとうつ病になる」の検証であった。結果として、背側縫線核にウイルスベクターを投与したTPH2ノックアウト群において、強制水泳試験における無動時間が増加していることを見出した。つまり、セロトニン合成の低下によってマウスは諦めやすくなり、行動学的絶望状態に陥りやすくなることが示された。さらに、スクロース嗜好性試験においても嗜好性の低下が観察され、背側縫線核のセロトニン合成の低下によって無快感症が誘発されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度に生じた問題は解決し、当初の令和4年度の目的もおおよそ達成できているため、おおむね順調とみなした。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の検討によって、背側縫線核セロトニン合成低下によってうつ様状態が誘発されることが示されたため、当初計画していた光遺伝学的手法との組み合わせによる検討は意味をなさなくなった。そこで、計画を変更し、本年度はもう一つの神経核である正中縫線核のセロトニン合成を低下させた場合の行動変化を追求することとする。情動に関与するセロトニン神経核は背側縫線核と正中縫線核の2つが主であることから、正中縫線核におけるセロトニン合成低下の効果も調べることで、従来の全身性TPH2ノックアウトマウスでセロトニンのうつ病仮説が支持されなかった理由が判明するかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定したHPLC-ECDによる5-HT減少の確認作業が難航し、基礎検討をやり直すこととなったため、一部予定の遅延があった。現在は当該作業は完了しているため、次年度は当初予定の目的に残額を使用する。
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