うつ病は持続する抑うつ感や興味、喜びの消失を主症状とする精神疾患で、睡眠障害や精神運動抑制、認知機能障害など多彩な副症状を伴う。その病態解明にはモデル動物が欠かせない。我々は、社会敗北ストレスをラットに用いる系で長年検討し、その結果、BNラットをaggressive resident(攻撃ラット)、そしてSDラットをintruder(試験ラット)に用いることで、SDラットに長期間のmaladaptive(病的)な社会回避行動と睡眠障害、海馬依存性恐怖記憶障害を生じるモデル系の作製に成功した(Matsuda Y et al. (2021) Sci Rep 11: 16713)。それらのラットの解析から、うつ病様病的社会回避行動が海馬θパワー値の増減と有意に相関する結果を得た。海馬θパワー値低下は、海馬機能低下、さらには大脳皮質全体の機能低下につながることから、海馬θパワー値がうつ症状を反映する可能性、さらにはその低下がより根源的なうつの原因である可能性を示唆する。 我々は前脳基底核内側中隔核(Medial septum: MS)- 海馬神経回路(Septo-hippocampal pathway:SHP)の異常によるθ波制御異常の可能性を考え、SHPの主要構成成分(GABA、アセチルコリン神経線維とミエリン)の中でも、特にミエリン化・炎症・酸化ストレスなどに注目し、脂肪酸分画異常に焦点を当てた解析を行ってきた。その解析には我々が独自に開発した新しい脂肪酸分画解析法 (Tatebayashi Y et al. (2012) Transl Psychiatr 2;e204)を用いた。Control vs. stressでラット脳SHPの脂肪酸分画の変化を解析したところ、ミエリンの主要構成成分であるオレイン酸の異常低下などが見出され、現在、論文準備中である。
|