研究課題/領域番号 |
21K07494
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
天野 大樹 北海道大学, 薬学研究院, 准教授 (00591950)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 内側視索前野 / 大脳皮質 / トレーシング |
研究実績の概要 |
前年に引き続き、内側視索前野に投射する大脳皮質細胞について特性を調べた。Creリコンビナーゼ依存的に赤色蛍光タンパク質を発現させることができるAi9マウスの内側視索前野に対して神経活動依存的にCreリコンビナーゼを発現させることが出来る逆行性ウイルスベクターを注入して発現させた。十分な発現期間をおき、仔マウスを提示することで養育または攻撃を経験させた後、パラホルムアルデヒド灌流を行った。これを薄切することで得た脳標本における養育・攻撃によって活動する細胞の発現パターン(赤色蛍光タンパク質陽性細胞数)を調べたところ、内側前頭前野に養育時に活性化する細胞が多く存在することが示唆された。その一方で攻撃時には内側前頭前野細胞の活動に変化は認められなかった。 次に内側前頭前野に光感受性イオンチャネル・チャネルロドプシン遺伝子を発現させるためのアデノ随伴ウイルスベクターを注入して発現させた後、脳スライス標本を作製して内側視索前野からシナプス電流を記録したところ、内側前頭前野から内側前頭前野に対して約7割の細胞で光刺激依存的な興奮性シナプス後電流が確認された。抑制性シナプス後電流は認められなかった。さらに内側視索前野投射型の内側前頭前野細胞の機能をDreadd法によって抑制することで起こる行動変化について調べた。実験には雌マウスと同居させて妊娠させたことが確認できた、中間状態の雄マウスを仔マウス提示実験に用いた。その結果、対照群に比べ、内側前頭皮質抑制群において仔マウスへの攻撃性が上昇する傾向が見られた。以上より内側前頭前野細胞は興奮性シナプスを内側前頭前野に供給することで子供に対する攻撃を抑制し、養育行動を促進させる機能を持つ可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経回路の探索によって得られた結果を行動レベルでも検証し、変化を検出出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、論文投稿に向け行動試験の例数追加のほか必要な実験を継続する。具体的には内側視索前野投射型の内側前頭前野細胞の抑制は子育て経験済みか否かで結果が異なるかどうか、内側視索前野投射型の内側前頭前野細胞を活性化させることで、養育行動が促進されるかどうか、等を調べることを想定している。また順行性にCreリコンビナーゼを輸送可能なアデノ随伴ウイルスベクターであるAAV1を用いて、内側前頭前皮質が内側視索前野のどの細胞に特に投射するのか明らかにすることを試みる。 さらに前頭前皮質への神経活動依存的逆行性トレーシング実験により、養育時に前頭前皮質を活性化させる上流領域を調べる。また、養育時に前頭葉皮質が活性化することが他の社会行動・情動行動に対してどのような影響を及ぼすのかについて、オープンフィールド試験やチューブ試験などの手法を用いて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
改変狂犬病ウイルスを用いたトレーシング実験を予定して前倒し請求申請を行ったが、想定よりも学内手続きや試薬準備に時間を要した。引き続き次年度に改変狂犬病ウイルスを用いたトレーシング実験の立ち上げ手続きおよび実験を行う。
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