研究実績の概要 |
不安症とうつ病は、遺伝率30‐50%の多因子遺伝を示す複雑な精神疾患であり、臨床的・遺伝的に異種性を示す。その異種性を軽減するための有用な中間表現型として、性格傾向、脳構造/機能、認知機能、睡眠などが挙げられる。疾患と中間表現型間には共通する遺伝基盤の存在が想定されている。一方で、疾患の病態解明には、遺伝的共通性だけでなく、遺伝的疾患特異性の検討も必要である。本研究では、不安症、うつ病、種々の中間表現型のゲノムデータを用いて、疾患共通性・特異性に着目した遺伝要因を検討しつつ、不安症とうつ病を判別可能な遺伝的疾患特異性の解明を目指す。 日本人パニック症と欧米人不安症やうつ病、神経症傾向、孤独感、認知機能等の中間表現型間の遺伝要因の共通性を示した(Ohi Eur Neuropsychopharmacol 2021, Psychiatry Clin Neurosci 2021)。さらに、うつ病と同様に、不安症は適応障害や自殺企図、初性交年齢や初産年齢間に遺伝的共通性があることを示した(Ohi J Affect Disord 2023, Mol Psychiatry 2022, Fujikane Psychol Med 2024)。一方で、欧米人児童における幼少時の睡眠障害と精神疾患間の遺伝的共通性を検討した結果、不安症は覚醒障害・悪夢と関連するのに対して、うつ病は入眠障害・中途覚醒や過眠症と関連することを示した(Ohi Transl Psychiatry 2021)。機械学習を活用した精神疾患や中間表現型のポリジェニックリスクスコア(PRS)を組み合わせたパニック症と健常者の判別では、欧米人不安症のPRSを中心に10個程度のPRSの組合せにて60%程度の判別精度を得られることを確認した(Ohi Aust N Z J Psychiatry 2024)。
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