研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)を併存する気分障害における抑うつ性混合状態(DMX)の実態を解明すべく、対象患者182名をASD(36名)、非ASD(146名)の2群に分類し比較検討を行った。我々の開発したDMX-12にて重症度評価されたDMX症状群において、ASD患者はDMX-12の総得点とその下位項目である破壊的感情/行動クラスターで有意に高値を示した(P=0.002)。また、重回帰分析において、ASDはDMX-12の下位項目である破壊的感情/行動のスコアの増加に有意に寄与した(P=0.020)。以上より、ASD併存のうつ病では、破壊的感情/行動を特徴としたDMXを呈しやすく、ASD患者のうつ病治療においては、抑うつの中に潜在する混合状態のリスクに照準を当てた注意深い観察と慎重な治療対応を行う必要性が示唆された(Zamami et al.,2021 Psychiatry Res)。 次に、DMXにおける炎症性マーカー(IL-6,TNF-α,hsCRP)や神経栄養因子(BDNF)の動態の解明のため、136名の大うつ病性エピソードを有する患者を対象に生物学的指標の測定を行った。その結果、DMX陽性群の血清BDNF値は陰性群よりも有意に高く(30.2±7.4 vs. 26.7±7.4 ng/ml, P=0.009)、DMXの中核8症状のスコアとBDNF値の間には有意な正の相関を認めた(r=0.19, P=0.027)。ロジスティック回帰分析においても、BDNF (OR=1.07, 95%CI:1.00-1.14, P=0.045)はDMXの重症度に有意に寄与する重要な因子であった。これらの結果より、一つの仮説として、重度の抑うつ状態下では代償的にBDNFが増加し、結果的にDMX症状群の表現型を生じる可能性が考えられ、DMXが病態的には“再生の過程”であることが示唆された。
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